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面接とバイトを終えて、十九時過ぎに部屋に戻る。昨日も透也がバイトから帰ってくる方が早かったから、誰もいない部屋に帰ってくるのは初めてだ。
なんだか悪いことをしているような気分になる。
透也からは二十時ごろに帰るというメッセージが来ていた。大学が終わるのは十七時頃と言っていたが、それにしてはずいぶん遅い。
大学にも居残りとかあるのだろうか。
風呂を済ませて、机の上に求人情報が載ったフリーペーパーを広げる。
社員寮あり、という文字がふと目に入った。
早く次の部屋を探さなければいけないと思っていたが、その手があったか。
俺は冊子をもう一度初めから見直して、社員寮ありと書かれた求人に丸をつけていった。
そうしていると、鍵が開く音が聞こえた。透也は手にスーパーのレジ袋を提げている。
「おかえり」
自然と口から出たことに驚いた。透也と出会ってから、驚くことばかりだ。
「ただいま。風呂は?」
「もう入ったよ」
「俺も入ってきて良い?」
なんでそんなことを聞くのかと思ったが、どうやら食事の時間が遅くなるのを気にしているらしい。なんだか申し訳ない。
「もちろんいいよ。俺はまだ就活の準備があるから」
透也はうなずくと、洗面所に消えた。
丸付けをしていると、ふと見慣れた名前が目に入った。
この前寝袋を買ったホームセンターだ。そういえば袋に社員募集のチラシを入れたと言っていた。
条件を読むと、社員寮はないが、住むところは用意してくれるらしい。俺はそこにも丸を付けた。
情報誌を一通り見終わったところで、ちょうど透也が風呂から出てきた。何となくそちらを見ないようにする。なぜか妙に気恥ずかしい。
「食べようか」
その声に顔を上げた。透也は小さなプラスチックの保存容器を電子レンジに入れている。一昨日作っていたものの残りだろう。
つくづくマメだなあと感心した。俺には絶対に無理だ。食べるのを忘れて腐らせるのが目に見えている。
「どうぞ」
電子レンジから温め終えたタッパーを取り出しながら、透也が俺に言った。
どこか儚げで張り詰めた透也の雰囲気と、生活感の強すぎる半透明のプラスチック容器はあまりにも不似合いだ。
容器をこれまた生活感溢れるローテーブルに並べる透也を見ながら、暗く薄汚れたベランダで気高く咲く、あの真っ赤な薔薇のことを思い出していた。
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