赤い薔薇の君

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 峰岸は俺から少し目を逸らして、小さくうなずいた。 「わかった、それでいいよ。それで、質問の答えは?」 「質問? あー、うん、俺は今はフリーター。ちょっと前まで高卒で会社員やってたけど、突然会社が潰れてさ。現在就職活動中」 「その茶髪で?」  鋭い質問が来た。思っていたよりも遠慮のないタイプらしい。 「ハローワークのおっちゃんとおんなじこと言うね。そんなに派手じゃないと思うんだけどなあ」 「就活中にしては派手なんじゃないの」 「まあそうかもね。俺も会社員時代は黒だったんだけど、会社潰れたらなんか馬鹿らしくなってさ。次はこの髪でも働けるとこにしようと思って。なんかあるでしょ、ショップ店員とか、適当に」  透也は素っ気なく頑張って、と言った。ちょっと呆れたのかもしれない。 「透也もなんかバイトとかやってんの?」 「家庭教師とたまに塾講」  透也はそう言ってテーブルの横に積まれた本を指さした。よく見ると、その中に中高生向けの参考書が混ざっている。 「へえ。時給良さそう」 「まあね」  透也はふっと笑った。初めて見る柔らかな笑顔がこの話題というのはちょっと残念な気がした。 「透也って関西人?」  透也が目を見開いて俺を見た。冗談のつもりで言っただけだが、どうやら本当にそうだったらしい。 「俺、訛ってた? 最近はほとんど言われることないんだけど」  透也の言葉はほぼ完璧な標準語だ。むしろ、関西弁を話すなら聞いてみたい。 「ああ、いやいや別にそういうことじゃないよ。時給の話で嬉しそうに笑ったから、からかってやろうと思っただけ」 「関西人が誰でも守銭奴なわけじゃない」  透也はむっとした顔でそう言った。ちょっとセンシティブな話題だったのかもしれない。 「ごめんごめん。関西のどこなの? 大阪?」  透也は小さくうなずいた。 「俺はずっと県内なんだよね。関西なんて、修学旅行でしか行ったことないや」 「奈良京都?」 「そうそう。そっか、言われてみれば大阪は行ったことないのか。行ってみたいな」 「来たって観光するようなところはあんまりないよ」  透也はもう一度ふわりと笑った。 「透也ってもっと気取った奴かと思ったけど、話してみるとそうでもないな。なんで友達いないの?」 「『家に来るほど親しい友達』がいないって言ったんだよ。別にぼっちってわけじゃない」 「あ、そっか、ごめん」  透也が頬杖をついてふいと横を向いて、ちょっと気まずい雰囲気になる。
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