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「決めたんでしょ! 叶わないって分かってても伝えるって。大人になるためにこの恋に決着をつけるって」
そう。そう決めたのに、声もカスカスで出てないし、足も動かない。緊張のせいで涼しい風に吹かれてるはずなのに、背中はべっとりと汗をかいてる。
「やっ、やっぱむり」
「無理じゃない! もう、わかった。無理矢理でも言わせる」
なつの不吉な言葉に頬を引き攣らせて、なつの顔を見れば。私よりも真剣な顔。刹那、なつの今まで聞いたこともない大きな声に、耳がキーンっとなった。
「さえき!」
彼の大きな背中が振り返る。優しい瞳がこちらを見ていて、彼の柔らかい声が私となつの名前を呼ぶ。あぁ、どうしようやっぱり好きだ。
「おー、さなもなつもお疲れ様。どしたの?」
大声で返しながらも一歩、一歩とこちらへ向かってくる。彼が、近づいてくる。彼の歩幅に合わせるように、心臓の音が高鳴って行く。
「さえき、あのさ。さなが話あるらしいからよろしく」
なつの手に背中を押されて佐伯くんに近づいてしまう。今から思いを告げようとしてるのに、頭の中は汗の匂いしないかな、とか、彼の瞳がやっぱり好きだとか。どう言おうとか、余計なことばかりぐるぐると渦巻いてる。
「どしたの?」
少し屈んで目線を合わせてくれるところとか、私が喋りだすのをゆっくり待ってくれるところとか、好きが溢れ出して止まらない。そんな些細な優しさが今は、痛いくらいに胸を締め付けている。
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