失恋記念日

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「ありがとう、なつ」 「伝えれて満足?」 「とりあえずは、辛いけど、うん」  なつの暖かさに身を任せる。なつともこれで離れ離れだ。いつまでも頼ってなんかいられない。分かっていても、私一人で大人になれそうにない。 「なつと離れるのも辛い」 「環境に慣れて行くって」 「だって、オンラインだよ多分友達できない」  ぽろぽろとこぼれ落ちる弱音に、どんどんなつの声も潤んでいく。なつの顔を見たらきっと、また涙が制御できなくなってしまうから顔を上げれもしない。 「もう、うちら大人の括りに入るんだよ」 「わかってる」 「でも、私もさみしい」 「手、繋いでもいい? 校門出るまで」 「もう大人になるのに恥ずかしいな」  そう言いながらもなつの柔らかい手が私の右手を握りしめる。私たちの道はずっとここまで隣合って進んできた。なのに、急に離れるなんてわかっていても心の整理は追いつかない。 「でも、ちょっと成長したかな」 「失恋を踏み台にするのはなんか、いけすかないやつっぽいけどね」  二人で笑い合って、今までの道を少しずつ振り返る。校門までゆっくりゆっくり歩きながら、別れ話を続けた。これでおしまいじゃないと言い聞かせながら。 「帰ってきたら絶対会おうね」 「メッセも定期的に送っていい?」 「もちろん、通話もしよ。辛くなったらすぐ聞くよ」 「なつの恋の話も聞きたい」 「新しい恋したら教えてね」  取り止めもない会話をしながら、子供でいられたこの思い出を胸の奥にしまい込む。大人への一歩を踏み出すように、なつと繋いでいた手を離して校門を出る。 「じゃあ、またね」 「うん、またね」  二人揃って背中を向けて親の元へと進み出す。別々の道を進むことになっても、大人になっても、きっとこの高校生活を私は忘れはしない。 <了>
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