5人が本棚に入れています
本棚に追加
「ありがとう、なつ」
「伝えれて満足?」
「とりあえずは、辛いけど、うん」
なつの暖かさに身を任せる。なつともこれで離れ離れだ。いつまでも頼ってなんかいられない。分かっていても、私一人で大人になれそうにない。
「なつと離れるのも辛い」
「環境に慣れて行くって」
「だって、オンラインだよ多分友達できない」
ぽろぽろとこぼれ落ちる弱音に、どんどんなつの声も潤んでいく。なつの顔を見たらきっと、また涙が制御できなくなってしまうから顔を上げれもしない。
「もう、うちら大人の括りに入るんだよ」
「わかってる」
「でも、私もさみしい」
「手、繋いでもいい? 校門出るまで」
「もう大人になるのに恥ずかしいな」
そう言いながらもなつの柔らかい手が私の右手を握りしめる。私たちの道はずっとここまで隣合って進んできた。なのに、急に離れるなんてわかっていても心の整理は追いつかない。
「でも、ちょっと成長したかな」
「失恋を踏み台にするのはなんか、いけすかないやつっぽいけどね」
二人で笑い合って、今までの道を少しずつ振り返る。校門までゆっくりゆっくり歩きながら、別れ話を続けた。これでおしまいじゃないと言い聞かせながら。
「帰ってきたら絶対会おうね」
「メッセも定期的に送っていい?」
「もちろん、通話もしよ。辛くなったらすぐ聞くよ」
「なつの恋の話も聞きたい」
「新しい恋したら教えてね」
取り止めもない会話をしながら、子供でいられたこの思い出を胸の奥にしまい込む。大人への一歩を踏み出すように、なつと繋いでいた手を離して校門を出る。
「じゃあ、またね」
「うん、またね」
二人揃って背中を向けて親の元へと進み出す。別々の道を進むことになっても、大人になっても、きっとこの高校生活を私は忘れはしない。
<了>
最初のコメントを投稿しよう!