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桜が舞う季節は、出会いと別れの繰り返しだ。憧れていた学校行事は、感染症でいろいろ縮小化されて納得がいかないまま終わったけれど。それでも、馬鹿みたいに親友のなつとはしゃぐ楽しい高校生活だった。恋だってした。優しい瞳に、さりげない気遣いがすてきな佐伯くん。私の恋は、まだ胸の奥で燃え盛っている。
でも、彼とはもう会えないと思う。高校という小さい枠組みの中でたまたま出会えた彼。この枠組みを出てしまえば、会う理由も隣にいる理由も全部消えてしまう。伝えるなら今日。それなのに、私の心は動き出してくれない。
「ほら、さな、行っちゃうよ? いいの?」
臆病風に吹かれた私の背中を無理やりに押してくれるのは、親友のなつ。なつの笑顔を見てドキドキする胸を押さえつけて、笑ってみる。
「ぎこちないなぁ」
「やっぱ、むり」
「伝えないまま終わったらもう、どうにもならないんだよ」
真剣な顔で手を握り締めてくれるなつの手のひらは私よりも熱くなっている。あと一歩、あと一歩の勇気が必要だった。すーはーと無駄な深呼吸を繰り返すたびに、彼の背中が遠ざかって行く。
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