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「化粧室には行ったのですが、ちょっとお取り込み中みたいで……」 「ああ、やっぱり? さっき連れだって席を立っていたからちょっと気になっていたのよね」 「同時に化粧室へ行くって、そういう意味になるんですか?」 「常にそういうニュアンスがあるわけではないけれど、男性陣の中には都合よく解釈するひともいるし、そこまで飛躍しなくてもアピールタイムとしてしつこくしてくるひともいるから……。気をつけてね」  たまたま催したタイミングが同じというだけでそんなことになるなんて、もう意味がわかりません。 「女の子は、山本さんの同期だったでしょ。彼女、肉食系みたいね。あの感じだと、結婚に持ち込むために手段は選ばなそう」  やーめーてー。友人で生々しい想像はしたくないですっ。ああ、もうなんか全部嫌になってきた。 「このお店、化粧室はあそこだけですよね? もう結構限界で……」 「そうねえ。会社の恥だから誰かが注意しにいかなきゃいけないけれど、私もかかわり合いになるのは嫌なのよね」 「ですよね、わかります」  その意見については完全に同意する。公共の場でお楽しみなひとたちなんて、まともじゃない。かかわり合いになっても、ろくな目にあわないだろう。もうあのひとが、私に告白してきたかどうかなんてどうでもいいし。 「山本さんも気をつけてね。彼だけではなく、化粧室に行くときに男性と時間を被らせるのは避けて。そういう雰囲気に持っていくのが上手なタイプって、わりといるから」 「は、はいっ」  え、これってもはや私も告白されてたんですよとか言えない流れじゃない? 下手したら同類扱いにならない? 「顔色がよくないけど、ああそうね。そもそも化粧室に行きたかったのよね。ちょっと店を出てから戻ってくる?」 「……うーん、そうですね」  正直、めんどうくさい。店を出たのなら、そのまま帰った方が絶対楽だよなあ。 「……顔に出てるわよ。実はね、今回の歓迎会、いろんなフロアのひとに声をかけているの。人数も多いから、抜けてもバレないと思うし……」 「ありがとうございます!」 「ふふ、適当に誤魔化しておくから、気にしないで」  食い気味にお礼を言ったら、苦笑されてしまった。すみません! その言葉に甘えて、頭を下げつつ居酒屋から退散する。さすが、総務課のお姉さま。できる女性は気遣いからしてすごいぜ!
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