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(7)
「はい、どうぞ。俺からのお詫びのアイリッシュコーヒーだよ」
「それで許してもらおうだなんてセコいですね!」
「でも一花ちゃん、口もとが緩んでるよ?」
美味しいものに罪はないからね!
「ウインナーコーヒーみたいにクリームがふわふわ。なんだかパフェみたい」
「せっかくだから、最初は混ぜずに飲んでね」
口の中に広がるのは、冷たいクリーム。それから熱いコーヒーの苦みが押し寄せてくる。そのまま砂糖の甘みとかぐわしい香りに口の中がかき回されていく。
「なんだか、くらくらするんですけど」
「だってそれお酒入ってるもん」
「確信犯だ!」
「あわよくばってのは、正直あるからね」
くすくすとおさえぎみの笑い声が色っぽすぎる。
「とはいえ、好きなひとだから、大事にしたいっていうのもあるし。体から落とすのも、ありだとは思うけど」
「さっきなんかしようとしてましたよね?」
「大丈夫、俺なしではいられないようにしちゃうから」
「全然大丈夫じゃない!」
熱いようで冷たいアイリッシュコーヒー。
下に行けば行くほど、砂糖が溶けて甘ったるくなる。まるで目の前の陽斗さんみたいに。
「俺たち、相性いいと思うよ」
「名前が春っぽいもの繋がりだから?」
「それだけじゃないんだけどさ。まずはちょっと試してみない? 後悔させないよ?」
「お試し?」
「お試ししたら、もう逃がさないけど」
コーヒーとは違う甘い香りが近づいてくる。ふたりの影が重なる直前、テーブルの上の携帯からメッセージアプリの無粋な音がした。誰だよ、こんな時に。そう思いながら携帯を確認し、そのままカバンの中に突っ込んだ。
「誰から?」
「会社のひと」
「昨日告白してきたひと?」
「なんでわかるんですか!」
「一花ちゃんのことなら、何でもわかる」
イケメン恐るべし!
ちなみにメッセージを読んだら、先輩の好感度がさらに下がった。ただでさえ低かったのに、マイナスに突入だ。
彼女どころか、ただ都合のいい女が欲しかったんだろうなってことがよくわかった。悩んだ時間を返せ。
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