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4月17日(雨)
部屋中を探してみると私の日記は全部で3冊あった。もちろん全部見覚えがなかった。中身を確認した。私はその男の子、立花というらしい。立花と付き合ったのは高校三年生の春らしい。
一年生の頃から憧れていたけれど同じクラスになったことで仲良くなったようだった。日記の中の私は立花とのことばかり書いていた。それこそ恥ずかしいぐらいに。
きっと誰かの性質の悪いイタズラに決まってる。私はそう思う。思おうとした。でも、この日記はあまりに私の事を知りすぎていた。
私の行動をあまりに詳細に把握していた。まるでずっと私を見張っていたみたいに。
4月18日(雨)
恵梨香に私はメッセージを送ってみた。立花って人知っているって。誰それ? っていう返事を期待して。でも結果は違った。
「律子の彼氏じゃん。何言ってんの?」
怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。
4月19日(くもり)
学校に行く元気がなかった。昨日の夜はよく眠れなかった。クローゼットに入る気にもなれなくて洗濯して干しっぱなしになっていた服をのろのろと着こんで学校へ向かった。
恵がまた「ちょっと変な匂いするけど昨日お風呂入れた? 何か悩み事?」と心配してくれたけれど笑ってごまかした。
誤魔化せているかどうかは分からないけれど。昨日はお風呂も入れなかくてシャワーだったし、今朝は化粧をする元気もなかったし鏡の前にも立ってないから、きっと誤魔化せていなかったと思う。
心配させちゃった。
4月20日(くもり)
ぱっとしない天気が続いている。まるで私の心模様みたい。
学校から恵と一緒に帰って恵と別れた後、誰かの視線を感じた気がした。きっと気のせいだと思った。でも、家に近づくと私の後ろを付いてくる足音が聞こえてきた。私は怖くなって走って逃げた。私が走りだしたら足音も走り出したからあれはきっと私を追いかけてたんだ。
なんとか逃げられたけど。一体誰だったんだろう。
どうしてこんな事になったんだろう。
そうだ。お兄ちゃん。お兄ちゃんに電話しよう。お兄ちゃんならきっと私を助けてくれる。そう思ってお兄ちゃんに電話を掛ける。
何度も何度も無機質なコール音が響くだけでお兄ちゃんは電話に出てくれなかった。
……どうして。
4月21日(雨)
外に出るのが怖い。学校も休んでしまった。ずっと布団の中にいた。
外はもう暗い。
4月22日(?)
お腹すいた。
4月23日(?)
着信がうるさい
4月24日(雨)
空腹が限界だった。冷蔵庫の中には食べ物は無い。買いだめしておけばよかった。もう、外にでるしかない。スマホを見る。恵から何回も着信があった。心配するメッセージが来ていた。
大量のメッセージが届いていたのを見てベットから這い出した。怖いけど。一度外に出ないと。このままじゃ死んでしまう。
玄関の扉をゆっくりと開けて左右を見回す。外は暗くなって夜中のようだった。
周囲に人影はない。パジャマ替わりに来ていたジャージ姿のままアパートを出て外階段を下りる。
視界の端で何かが動いた気がしてそちらを見ると何もない。驚きと安堵を繰り返しすぎて心臓がつぶれてしまいそうになった時。街灯の下でまた何かが動いた気がした。また気のせいかと思いながら視線を向けると。そこに人影が立っていた。男の人だった。
明らかにその男の人は私を見つめていた。数日前に私を追いかけてきた男だと直感的に思った。私は踵を返して逃げ出した。
「待て!」と後ろから叫び声がしたが待つわけがなかった。全力で走って逃げたが、あまりに距離が近すぎた。アパートの階段を登り切ったところで腕を掴まれた。離してと叫んだが男は強く私の腕を握って離さなかった。
私は何とか逃げようと必死になって暴れた。男は私を抑え込もうとしながら叫んだ
「××を××せ!」男のわめき声にも近い叫び声を聞くと同時に私は反射的に大きく腕を振った。その腕が男の顔を打ち付け、不意を突かれたらしい男は私の腕を離し階段を転げ落ちて行った。ごん。と鈍い音がして男は地面に倒れたまま動かなかった。男は死んでいた。頭から大量の血を流し信じられないという目をしながら虚空を見つめていた。
私は悪くない。だってあれは正当防衛なんだから。私は男をその場に残したまま部屋に逃げ込んだ。
私は悪くない。私は悪くない。私は悪くない。私は悪くない。私は悪くない。私は悪くない。私は悪くない。私は悪くない。私は悪くない。私は悪くない。私は悪くない。私は悪くない。私は悪くない。私は悪くない。私は悪くない。私は悪くない。私は悪くない。私は悪くない。私は悪くない。私は悪くない。私は悪くない。私は悪くない。私は悪くない。私は悪くない。私は悪くない。私は悪くない。私は悪くない。私は悪くない。私は悪くない。私は悪くない。私は悪くない。
スマホが光った。なんだろう。恵から新着メッセージが届いていた。
「お前、無視するんじゃねぇよ。ちょっと顔が良いからキープにしてやろうと思ったのに。あんまり私をバカにするなよ。ああ、もう学校に来てもお前の居場所なんかないから。お前に酷い振られ方したって広めておいたから。馬鹿な男どもは私のことをすっかり被害者って信じているからね」目を疑った。恵の豹変ぶりにじゃない。キープとはどういうことだ。
私は。
さっき階段から落ちて行った男の言葉が頭に蘇る。
「律子を返せ!」
律子? 律子は私のはずなのに。ふらふらと鏡の前に行った。鏡は割れていた。どうして。私が割ったから。頭が痛い。
ここ一か月。いや13日間近づかなかったウォークインクローゼットに近づく。スライドドアを開けて中に入る。
鼻が曲がりそうな腐臭がした。どうして私は今までこの臭いを無視できていたのだろう。
背の低い箪笥にもたれるようにして律子が腐っていた。
ああ。
思い出した。
あの日。久しぶりにあった妹の律子。幼い頃に強盗に両親が殺されてからたった二人で生きてきた。
律子が生涯したい人がいると言って見せてきた彼氏の写真。
そこに写っていたのは俺たちの両親を殺した男の息子だった。すごく脅えていた律子は知らされていなかったが
俺は捕まった犯人の事を知っていた。その息子の事も。
きっと知らなくても俺はすぐに気が付いただろう。その男は父親とそっくりの顔をしていからだ。
俺はそんな男と付き合うのはやめろと言った。しかし、律子は反抗した。
初めての事だった。
すでに恋仲なのだという。
あんな汚れた男の血が流れている男が。大事な律子に手を出している。
許せなかった。律子が汚された気がした。律子を変えてしまったのもその男なのだと思うと我慢ならなかった。
気が付けば律子を突き飛ばしていた。そして、律子は死んでいた。
私が。俺が。
律子を殺してしまったんだ。
それを認めたくなくて。
俺は。妹の振りをして生活を。自分の専門学校に通いながら、律子の部屋へ帰って律子のふりをして日記を書いていた。
律子はまだ生きている。
そうよ。生きてる。
だって、今私はこうやって。日記を書いているのだから。
あはは。あんなぶくぶくに腐りおちたものが。律子なわけがない。
……ごめんな。
俺はきっとお前のところへはいけないだろうが。
お前のいないこの世に。
生きている意味はないだろう。
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