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 悪名高い北署にも、春が来た。 「おめでとう、四谷幸司(よつや こうじ)君。  本日、三月一日付けで刑事に昇格だ。この北署の為により一層頑張ってくれ」  刑事課の課長・日比野昭夫が、心底嬉しそうに言った。  北署は、交通事故に交通違反、行方不明、犯罪……どれをとっても県内ブッちぎりの一位。  誰もが 「北署への異動だけは嫌です」  と泣いて嫌がっている。  そのお陰で、万年人不足。  いつも大忙しだった。  中でも刑事課は群を抜いた忙しさで、人員が増えるのは嬉しいことこの上ない。 「はい。粉骨砕身の気持ちで臨みます。どうぞよろしくお願いします」  敬礼と共に幸司は返事をした。  日比野課長は「その意気だ!」と返事をしつつも、微妙な笑顔だ。きっと、この意気込みもいつまでもつやら……と高を括っているのだろう。 (とはいえ、俺、北署管内しか知らないんだよな……)  敬礼の腕を下ろしながら、幸司は思った。  四谷幸司は、警察学校を卒業後、北署に警察官として交番勤務。二九歳になった今年、念願の刑事に昇格し署内勤務となった。  北署以外知らない。  比べようがない。  ここが犯罪多発地域だとか激務地域とか、全てがここが基盤なので、日比野課長の微妙な笑顔の意味は分かっても気持ちは分かりかねていた。 「知っているだろうけど、くれぐれも『Urban Wolf(アーバンウルフ)』には気をつけろよ」  釘を刺しながら、日比野課長が辞令書を幸司に渡した。 「U W(アーバンウルフ)……。あの若年層で構成されていると言われている犯罪組織……ですね?」  両手で恭しく受け取りながら、幸司は答えた。
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