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 所狭しと並べられた職員机。  それを隔てる壁のようなカウンターの向こうでは、何らかの手続きに来た市民とそれに対応する職員でざわざわと賑わっていた。  いつもの慌ただしい様子に (鬱々と考えても仕方ない。刑事職初日、頑張ろう……!)  と幸司は奮い立った。  ふと見ると、カウンターの内側、職員デスクの間に若い男が居た。 (随分若いな……)  私服を着ているということは刑事だろう。だが、新米の自分よりも若い。二十代そこそこだろう。 (しかも、目立つ……)  いわゆる刑事ドラマにでも出てきそうな爽やかな青年だった。柔らかそうな明るめのアッシュブラウンの髪が印象的なその青年は、すらりとした体躯で、ラフなジーパン姿。首に巻いた軽やかなストールが今時の若者っぽさを感じさせた。服装とふわふわの髪が相まって醸し出す柔和な雰囲気。  昨今の犯罪多様化に合わせて、刑事も服装や外見を変えてきた。ましてや犯罪多発地域の北署。こんな今時の青年刑事がいてもおかしくはない。 (おかしくはない……が)  ただ年から言えば、警察学校を出たばかりだろう。長めの前髪に違和感を覚えた。 (警察学校に入ると、すぐに短髪にするもんだが……)  と幸司は、自分の短めの黒髪を触ってみた。  警察学校では、入学当初に「警察官にふさわしい身なり」という名目で、皆が揃って短髪にした。  その名残で、大抵のものは卒業しても尚、短くしている。習慣化してしまうのだろう。幸司も(床屋に行っても、つい「短くしてください」と言ってしまうんだよな)の一人だ。  自分と比較して、若い刑事らしき男を眺めていた。 (色んな犯罪要員だろうけど、こんな目立つ奴が刑事なんかやってていいのか? 人手不足問題も、そこまで深刻か?)  人事部の起用に少しながら疑問を覚える。  だが、周りの者は彼の存在を全く気にしていない。  と、いうことは前から配属されている刑事なのだろう。 (しかし……)  どうしても、気になってその男の動きを自然と目で追ってしまう。
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