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 その男がデスクの間を動くと、ひらひらとストールが翻る。  その様子が、蝶が花から花へ飛ぶような感覚を覚えた。  まるで鼻歌でも歌い出しそうな、楽しそうな表情でデスクの上や棚に収められたファイルをぱらぱらと見ては、丁寧に元の位置に戻す。 (?)  ぼんやりとした違和感に捕らわれていた幸司が、はっきりと (おかしい……!)  と感じ始めた。 (何故、複数の机を行き来する?  誰かに頼まれたにしても、あんなに複数の他人の机の上まで見る必要があるのか?)  周りを見渡すが、誰も彼の異質さに気付いていない。 (まさか……?)  半信半疑で、幸司は思い切ってその青年に 「あの、君……?」  と声をかけた。  自分に声をかけられたと思わなかったらしく、青年は数秒経って、ようやく自分を見つめる幸司の方を振り向いた。  正面を向いた青年の整った顔立ちに、一瞬、幸司は息を飲む。 (まじでドラマの俳優かよ……)  内心、男のくせにストールなどつけたチャラチャラしたおしゃれな服装に嫌悪感さえあったが、アイドルグループもかくやな青年の美貌に (釣り合っている。こいつなら、この服装も許される)  と幸司は思った。  カラーコンタクトを入れている訳でもなさそうだが、大きな淡い茶色の瞳が幸司を捉え、二回ほど瞬きした後には更に驚いたように大きく見開いた。  その後ににこりと笑うと、左手ひとさし指を柔らかそうな唇に当てた。 「静かに」……いや「黙って」のサインだろう。  一連のたおやかな動きに、幸司は青年のサインに従ったわけではないが、続ける言葉を失っていた。
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