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 青年は、そのままくるりと向きを変えると、カウンターの方に向かって歩き出した。 「あ……!」  慌てて幸司は、再度呼び止めようとしたが、青年は聞こえていない様子で歩いていく。 「おい……! 君……!」  青年は、そのまま何事もなかったかのようにカウンターから出、一般の市民と混ざってしまった。  混雑する窓口の人の合間を縫うようにするすると歩き、とうとうその先の北署入り口の大きな重い扉を開けて出て行ってしまった。 (何なんだ、一体?!)  慌てて追いかけた幸司が彼を捕まえたのは、北署出入り口の三段しかない階段を降りてからである。  その青年は声をかけただけでは決して止まる事はなかった。 「おい、君!」  幸司がその腕を掴んで、やっと彼を振り向かせることに成功した。  おそらく、そうでもしなければ彼はそのままどこかへ去っていっただろう。  そんな勢いで、歩いていた。  北署の入り口、駐車場に面したそこは都心だというのに、市の「公共施設環境改善」対策で無骨なアスファルトだけではなく、剪定された木々の植え込みがあり、さながら小さな公園を思わせた。  木漏れ日の下、青年は幸司が口を開くよりも先に 「凄いね、僕に気付くなんて」  と、にこやかに話しかけてきた。 「君は、一体……?」  やっと会話に応じた青年の手を安心して離す。 「北署職員なのか?」  カウンター内に居たのだ。  至極当たり前の質問に自分でも滑稽に思えたが、彼の違和感に幸司はどうしても尋ねずにはいられなかった。 「ううん、違うよ」  明るく平然と答えるその青年の反応に 「違うっ……!?」  想定外の返答に驚き、声を荒げた。 「じゃ、ダメじゃないか! 勝手にカウンターの中に入り込んで、署内の机の上のものを見ちゃ!」  ついでに北署内のセキュリティにも疑問を感じる。
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