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「めぼしいものはないかなぁと思って」
まったく悪びれることなく、青年は答える。
「はあ?」
「何でも良かったんだけど……。さしずめ、次の検問はいつするとか分かったら、七星会にでも教えてあげようと思って調べてみたけど、今回は知ってることだらけだったなあ」
その口ぶりに
「こんなこと、何度もやっているのか?!」
ますます声を荒げる。
「そうは言っても、誰も僕を見咎めないし」
そういえば、そうだ。
何故、この青年に誰も声をかけない?
「例えば、そうだな……」
青年はキョロキョロとあたりを見渡した。
「その植え込みの石ころ」
「?」
「石ころは誰にでも見えているけど、誰もそれを意識しない。僕は、そういう存在なんだよ。だから誰も気付かない。
あなたが珍しいんだ。道ばたの石ころなんかを意識して見ているのだから」
「何を言っている? 人が、石ころな訳がないだろう?」
「所がそうなんだな、僕は」
「?」
さっきから頭に疑問符しか思い浮かばない。
(何を言っているんだ、この青年は)
「一種の才能だと思うんだけど。
芸能人が目立つオーラを消して、マスク一つ眼鏡一つで一般人に紛れ込んじゃうような……そういう気配を消すスイッチを僕も持っているんだと思う。だから、今まで誰にも見つかったことがないよ。
それに堂々としていれば、返って誰にも怪しまれないもんなんだ」
青年は、天使もかくやと思わせる無邪気さと美しさで微笑みながら言うが、言っていることは最悪だ。
「言いにくいことだが、君のやっていることは犯罪だ。俺は、君を捕まえなきゃならない」
「そう? でも、見つからなきゃいいんじゃない? 日本の警察は『証拠がすべて』だろ?」
外国人のするジェスチャーのように、面白そうに青年は両手を肩まで上げて首を横に振ってみせた。
「そうだけど、俺は見つけてしまったよ。君を」
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