【試し読み】ゆうやけ

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 三ツ矢が翌年もまた同じ局で年賀状配達のアルバイトをしたのは、ハハキギさんの「俺たちはストロー」という言葉が妙に胸に残ったからだろう。ただ残念なことに、ハハキギさんは半年前に市内の他の局に異動したとかで会えなかったが、小雪舞う早朝からの配達も、すさまじい「謹賀新年」の洪水も、自分はこれらを受け流すためのストローだと思えば、ずいぶん気が楽になった。  松が取れて年賀状配達もひと段落ついた頃、顔見知りとなった局員に誘われるまま通年のアルバイトとして郵便局に登録してみれば、その気楽さはますます増した。なにせ年賀状以外の郵便物とは、おおむね葉書から手紙、書籍郵便まで形も色もバラバラで、嫌気が差すということは滅多にない。市内をぐるぐる走り回り、渋滞しない道や抜け道を探すのも、なかなか楽しかった。  そうなると当然、一日で配れる郵便物の数も増えていったが、そんな三ツ矢に郵便局員たちは軽く苦笑いして、「気を付けろよ、三ツ矢」と軽く肩を叩いた。 「郵便の中には、嫌な奴も時々混じっているからな。この仕事をしていると、どうしてもそいつに出会っちまうんだ」 「嫌な奴……クレーマーですか?」 (続きは『別冊ゆる天狗 鼻・髭・いやな手紙』にて掲載。全体4500文字)
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