【試し読み】かんけい

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 また、アルバイト配達員が辞めた。おかげで新しい学生バイトが見つかるまで、他の郵便配達員のノルマは一割増になる。 「まったく、最近の奴らは根性がないよなあ。さっさと辞めちまうなら、最初からアルバイトなんてしようと思わなきゃいいのにさ」 「そんな愚痴はいいから、早く新しい奴を取ってくれよ。一割増のノルマなんて、事故を起こせと言ってるようなもんだぜ」  古参の配達専門職員から文句を言われ、小久保は「そんなに簡単にいくかよ」と胸の中で毒づいた。  朝から晩まで、バイクや自転車で町中を飛び回っているこいつらには分からないのだ。郵便を持ち込む客に対応するでもなく、山の如き郵便を処理するでもないというだけで、他の職員から役立たず呼ばわりされる総務課職員が、日々、他の職員の尻ぬぐいにどれだけ走り回っているかを。  誤配や郵便事故のクレーム、職員の異動の下準備。年賀状の季節には必死にアルバイトをかき集めながら、局ごとに課せられた年賀状販売ノルマを達成すべく奔走する。  昨日、辞めさせてほしいと言い出した三ツ矢とかいう大学生は、年始の年賀状配達が終わってもなお、アルバイト継続を志望した珍しい男だった。この分なら、将来はバイトリーダーも任せられるかもしれない、と思っていた矢先の退職依頼。期待をし、頼りにもしていた分、その穴を埋めるのはなかなか難しい。 「小久保さんだってさあ、以前はバイク乗っていたんでしょ。俺たちがこれだけ大変なのは分かっているんだから、たまには手伝ってくれたっていいじゃない」  冗談じゃない。小久保が配達員として市内を走り回っていたのは、まだ二十代だった三年前までの話だ。ある雨の日、飛び出して来た猫を避けようとしてバイクで転び、右足を複雑骨折した後は、自転車にすら乗っていない。 「そりゃいいなあ。たまには出てやれよ、小久保」
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