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5 きばれ薩摩隼人!
「ほらあ、もう他校は、ほとんど儀式をしたぜ。あと残っているのはうちの学校ぐらいだ。さあ、いってみよう! きばれ薩摩隼人!」
そうだよな。ここで僕が愛を叫んでも、分かるのは下園小百合本人と、うちのヨット部員ぐらいで、なんてことないよな。それに、嘘を言うわけでもなし。心に恥ずることはないぞ。
素直な僕の気持ちを、下園小百合と風の神にささげるのだ。
よし、僕も薩摩隼人だ!
チェスト行けだ!
僕は立ち上がった。
「お! やるんか! きばれよ!」
先輩が、手を叩いて鋭く言った。
僕は立ち上がり、大きく深呼吸した。
「み、南薩摩高校1年 枕崎剣司! 『われは海の子』を歌います! わーれーは、うーみのこ、しーらなみのー」
ええい、始まったらもう止められないぞ。やるっきゃない。
「わーが、なーつかしき、すみかーなれー。
僕はー、南薩高1年 下園小百合さんがー、好きだー! 風の神よ我が願いと共に、風を吹かせたまえー!」
やっちまった。この静かな海面だ、下園小百合にもバッチリ聞こえたはずだ。
あーもうどうにでもなれ! 風よ吹いてくれよ。
「おい! やればできるじゃないか! お前もイッパシのヨット部員じゃ!」
先輩は、僕の背中を叩いて褒めてくれたが……。下園小百合はどう聞いたのか。
僕は周りのヨットを見渡した。
すると、下園小百合が乗っていると思しきヨットで、クルーが立ち上がった。
よーく見ると、下園小百合だ。透き通るような声が聞こえて来た。
「南薩摩高校1年 下園小百合! 『おはら節』歌いまーす! はなはきりしま、たばこはこくーぶー もえてあがるは、オハラハー、さくらーじーまー」
すると下園小百合のスキッパーが合いの手を入れた。
「ア、ヨイヨイヨイヤサーっと」
歌は、ここで終わった。次は祈願だ。
「海の神、風の神、風を吹かせたまえー」
そう言うと、下園小百合は右手を指し出し、南に向いて短歌のようなものを朗詠し始めた。
「風待つとー、我が恋ひ居ればー、我が船のー、セール動かし、南の風吹くー」
朗詠が終わると、下園小百合は、静かにコックピットに座った。……どう反応していいのやら……。なに言ってるのか意味が分からなかったし。
その時、本部船のクルーザーに乗っていた運営員の教員が、拍手をした。
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