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トーマスが死んだ。
喫茶店の主人によると、六月上旬の朝、ベンチの下で冷たくなっていたという。
彼との出会いは三年あまり前に遡る。すっかり葉桜になった県道を不動産屋の女性に急遽空きが出た賃貸マンションに車で案内してもらいながら、休日に散歩もいいですよ、と教えてもらったのがT公園だった。
年を重ねるにつれ、動植物に惹かれるようになるのは自然の摂理なのか、いささか厭世的な気分も相まって、週末ひとけのない早朝に歩くことが引っ越して早々の習慣となった。
トーマスと名づけたのは猫好きの友人で、都心の真ん中で一人暮らしをしている彼女に僅かばかりのんきな気分を味わってほしくてせっせと写真を撮って送っていたら、ある日「トーマス」になった。
ちなみに、名前の由来はアニメの機関車の主人公でなく『魔の山』の著者からなのだそうだ。その違いもこだわりも聞かないまま、私はトーマスとの交流を深めていった。
(続きは『ねこのはなし』にて掲載。全体1000文字)
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