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探しもの
「眼鏡、眼鏡、眼鏡……」
ぶつぶつと呟きながら、彼氏が部屋中をうろうろしている。
僕はそんな彼に問う。
「何をしているの?」
彼氏は困ったような顔で答える。
「眼鏡、探してるんだよ」
「眼鏡……」
「ほら、探しものがある時は、その物の名前を呼びながら探すと良いってテレビで言ってたから」
「そう……」
その探しているっていう眼鏡、彼氏の顔にかかってるんだけどな……。
視力が落ちて、そのことにも気付いていないのかな……。
僕は、ひょこっと彼氏の顔を覗き込む。彼氏は目を見開いて僕を見た。
「僕の顔、どんな風に見える?」
「どんなって……今日も可愛いよ」
「それは、どうも。でも、ぼやけて見える?」
「いや、ぼやけてはいない……ん?」
ぺたぺたと彼氏は自分の顔を触った。そして――。
「ああっ! 眼鏡、あった! なんだよ、気付いてたなら教えてくれても良いのに」
「ふふ、見ていて面白かったから……」
くすくすと笑いながら僕は彼氏の頬にキスをした。
「可愛いって、本当?」
「本当だとも」
「……ふふ」
「……くくっ」
笑い合いながらベッドに寝転ぶ。
彼氏は、さっきまで必死に探していた眼鏡を簡単に外してしまい、それをベッドサイドに置いた。
「外して、僕の顔はちゃんと見えるの?」
「見える。遠くが見えにくいだけだから」
そう言って、彼氏は僕のくちびるを塞いだ。
甘い刺激にとろけそう。
ねぇ、ずっと僕のことを見つめていてね。
裸眼同士で見つめ合う。
彼氏の瞳の中には、どきどきを隠せない、そんな自分の姿が映っていた。
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