侵入者たち

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侵入者たち

「救急車を呼べ!」  目の前の男は怒りの表情で俺を見上げていたが、俺が何の反応も示さないでいると、力なくうな垂れた。 「頼む。救急車を呼んでくれ。でなきゃ弟が死んじまう……」  彼の傍らには、微動だにせず床に転がる男の体が。その金色の髪は鮮血に染まっていた。  事の発端は30分ほど前のことだ。二階のベッドルームにいると、誰もいないはずの一階リビングのほうから物音が聞こえたような気がしたのだ。  身動ぎもせずに耳を済ませた。何かが動き回るような物音がする。それに人の会話のようなものも混じっている。咄嗟に辺りを見渡したが、武器になりそうなものは何も無い。そういえば、玄関を入ってすぐのところにゴルフバッグがあったことを思い出した。  足音を忍ばせながら慎重に階段を下りる。玄関の上がり口に置きっぱなしのゴルフバッグからドライバーを抜き取り、両手でしっかりと持った。  いつでも振り下ろせる体勢を保ちながら、開きっぱなしのリビングの戸口から中を覗き見た。常夜灯が点いているのでおぼろげながら中の様子が確認できる。  髭面丸坊主の男と金髪ロン毛の男が、土足のまま部屋をうろついていた。掃きだし窓のガラスが割られているところを見ると、そこから侵入したらしい。 「何でもいいから金目のものを探せ」  囁き声が聞こえ、二人は手当たり次第に物色し始めた。  俺の中で怒りの感情がふつふつと燃え上がった。  すかさず体を低くしてリビングに入った。目的に集中しているせいか、男たちが俺に気付いた様子は無い。  ソファの陰に隠れながら様子を伺い、二人がちょうど俺に背を向けた隙に飛び出した。  まずは金髪ロン毛の頭目掛けて思い切りドライバーを振り下ろす。ヘッドが頭にヒットし、ぐしゃりと嫌な音を立てた。  一瞬うめき声を上げて倒れた男には目もくれず、今度はドライバーを水平に振り回した。ヘッドとシャフトが見事に髭面坊主の両膝を捉え、パキンと乾いた音が響く。どうやら脛の骨が折れたようだ。男は悲鳴を上げながら崩れ落ちた。  頭から血を垂れ流したままピクリともしない金髪ロン毛の横で、膝を抱えてうずくまる髭面坊主。それを仁王立ちで見下ろす俺。 「なんなんだよ、お前。いきなり卑怯だろう。足、折れたじゃねえか」 「泥棒がふざけたこと言うんじゃねえ」  そこでようやく髭面坊主が金髪ロン毛の様子に気付いた。 「おい。しっかりしろ、おい」  男が仲間の肩を揺するのを見て、 「あー。頭打ってるから、あまり揺らさないほうがいいと思うよ」 「お前が殴ったんだろうが!」  俺を睨みつけてから、髭面坊主が不安げに金髪ロン毛の顔を覗き込む。そして再び俺を見上げた。その顔には憤怒の表情が張り付いていた。 「おい。救急車を呼べ」  そうは言われても素直に応じるわけにもいかない。そんなことをしたら暴行の前科がついちまう。だったら逆にこいつらに止めを刺してやろうかと思いつつ無言で眺めていると、髭面坊主は力なく頭を垂れた。 「頼む。救急車を呼んでくれ。でなきゃ弟が死んじまう……」  彼は動かなくなった弟に視線を向けると、 「見ろ。こんなに血が……」  そのとき、突然部屋の明かりが灯った。驚いて戸口を振り返る。スーツ姿の男が一人と、その背後に妻と思しき女がいた。男は両手で3番ウッドを握っている。 「おい。警察を呼べ」  男が振り向かずに背後の女に言った。  やべ。家主が帰ってきたようだ。今日は帰ってこないはずだったのに。 「なんだよ。お前も泥棒かよ」  後ろで髭面坊主の声が聞こえた。
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