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僕が聴いているのは 君に聞きたいのは…
わたしが本気で彼の声を聴き始めた頃を思い出すと涙が出てくる。
イヤフォンをしながら耳を澄まし、その瞬間はとある晴れた春の日突如として訪れた。音がずれた…一言も話したことがなかった彼から遂に聞かれた。
「何 聴いてるの? ねぇ」 「えっ」
わたしは、逆に聞き返したことも覚えている。
公園ではペットと散歩する人やランニングをする人々がすれ違い、春は紫外線が強いのでサングラスをして顔を見せないマダム。牛柄のバネのついた遊具に小さな男の子が乗り、お母さんがはしゃぎながら揺らしている。
「何かききたいの?」
「え!?」
僕はまごまごしながら、曲のことを指しているのか彼女自身のことを指しているのかわからないフリをした。実際、青くて判かりようがなかった。
「うーんと。えーと…」
「わたしも ずっと あなたのこと気になっていて、ずっと前から聞きたいことがあったの」
「えっ なに?」
「あなたがわたしのこといつ聞いてくれるかってこと」
ドキっとした。
春一番の突風が吹き、その言葉がわたしとあなたの耳を劈き、生涯忘れられない音として耳の奥底まで飛ばし閉じ込めた。
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僕は昨晩、あの頃よく聴いてたブルージーな曲『あなた』をイヤフォンで感慨深く聴き、眠りに落ちてしまっていた。
わたしは今さっき、あの頃よく聞いていた曲『CAN YOU HEAR ME』をあなたの横でまどろみながら聞いている。ベットであなたの寝言と共に…。
「もう起きるの?」
「ああ、ランニングしに行って来る」
「じゃあ わたし 下の娘と公園で遊んでくるわ」
「いいね 君のおばあちゃんも誘ったら」
「そうね」
春の陽ざしが芝生を緑し、穏やかな風が皆を藍している。
ありふれた時と日常が幻色のように繰り返している。
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