ばあやを呼べ

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 学人が小学校を見るのは今日が初めてだった。というのも入学式を予定していた小学校の体育館は耐震工事の工期が予定より遅れたため、学人の父の意向で、松野家の敷地にあるアリーナで行われたのだ。そういうわけで学人は初めて見る小学校におどろいた。 「いやだ。こんなとこ。行きたくない」  間近にせまる小学校に学人は不満をもらす。 「この小学校は明治からある、歴史的に有名な小学校で、先生も立派な方が多いから、ぼっちゃんも満足するはずです」  不満たらたらの学人を綾乃がとりなす。 「……」  正門から堂々と乗り入れ、昇降口ではなく、中央玄関に車は止まった。  開放された扉の前で校長をはじめ先生方がずらりと並んで学人を迎える。 「学人ぼっちゃんをお連れしました」  綾乃が素早く後部席のドアを開ける。 「うわ、汚なっ」  学人が絶句した。  校舎は市内でもっとも古い建造物である。外壁はひび割れ、廃墟然としている。 「おはようございます。学人ぼっちゃん。朝早くからようこそいらっしゃいました」  ふつうに登校したにもかかわらず校長が慇懃に挨拶をする。 「おはよう」  学人は居並ぶ先生たちに軽く手をふる。 「ぼっちゃん、お父様は?」  後部席から降り立ったのが学人ひとりであることに校長の顔が曇る。 「本日は、学人ぼっちゃんしかいらっしゃいません」  綾乃が素っ気なく言い放つ。 「はぁ、そうでしたか」  校長は肩を落とし、あからさまに落胆する。  校長にしてみれば、このオンボロ校舎を学人の父に見てもらい、あわよくば建てなおしてもらいたいともくろんでいた。それだけにすごく残念なのだ。 「校長先生。よろしく」  そんな校長の気も知らず、まるで友だちに話しかけるように学人は校長に声をかけた。 「は、はい。よろしくお願いします。さっそくですが、ぼっちゃんに紹介しておきます。ぼっちゃんのクラスを担任する一年一組の藤本先生です」 「藤本です。よろしくお願いします!」  細身の男性教員が学人に挨拶をした。  まだ若く、はつらつとしている。
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