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学人はさっそくマクラに頭をのせる。目をつぶればすぐに眠れそうだ。
「おい、なにやってんだよ」
太一が学人の肩をゆする。
「益田君。さっきから言ってるよね。先生がお話ししているときは静かにしなさいって」
藤本先生は腰に手を当て、いかにも怒ってますよとアピールしている。
「だって、先生。こいつマクラして寝てるんだもん」
やってられないよと言いたげに太一が頬をふくらます。
「松野君はお疲れなんだ。そっとしておいてあげなさい」
「はあ?」
太一は脳天から魂がぬけるような声をあげる。
しばらくすると学人のイビキが教室中に響きはじめる。
ガァー。ゴゥー。スー。むにゃむにゃ。
35人いる児童の中でひとりイビキをかく学人に周りからは笑いが起こる。
「笑っているのはだれですか。静かにしなさい」
「きゃはは」
むしろ笑い声が大きくなった。盛大にイビキをかく学人の姿に教室はゆるみまくっている。いくら藤本先生が声を張ってもまるで効果はない。
そうこうするうちに一時限目が終わり、チャイムが鳴った。
「ふぁ~」
不思議なことに休憩時間になると学人は目を覚ました。
「なんでおまえ怒られないんだよ」
太一はうしろの席から学人の正面にまわると文句を言った。
「ん? おまえはだれだ? 新しい使用人か?」
「は?」
「人に声をかけるときはまず名を名乗れ」
「はあ? おまえこそ名乗れ」
顔を真っ赤にして太一は言い返す。
「ばあや。ばあやはおらぬか。ばあやを呼べ」
学人は席に着いたまま声高らかにばあやを呼ぶ。
「はいはい。ここにいますよ」
ばあやの声がする。どこにいたのか、ばあやは学人の席のうしろ、つまり太一の席に座っていた。
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