オー・マイ・ガール!

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オー・マイ・ガール!

「私の名前を呼んでください」  彼女が俺にするむちゃぶりのひとつが、これだ。  計算しつくされた美しい角度で首をかしげる彼女に、俺はため息をつく。このむちゃぶりは、本当に苦手だ。どうにか話を逸らせないだろうかと考える。 「……そんなことよりも姫様、城に戻りましょう」 「そんなこととはなんですか。大事な嫁からのお願いでしょう」 「いいから、城に戻りましょう。一刻も早く」  じゃないと、俺が騎士団長に怒られる。考えるだけで胃が痛い。 「あ、ってちょっと、どこ行くんですか!」 「パン屋」  一国の女王ともあろうものが護衛もつけず、庶民に紛れて街を散歩する。何をするかと言えば、庶民に紛れてパンを買い、庶民に紛れて歩きながら買ったパンを食べ、庶民に紛れて安いアクセサリーを物色し、庶民に紛れて「このアクセサリー買って」と夫の俺にねだる。  あなたは本当に女王ですか、と時々聞きたくなる。さすがにそんなことは言えないが。 「旦那様、ほら早く行きましょう。パンが売り切れてしまいます」 「騎士団長が心配しますよ。せめて護衛のひとりやふたり連れてくるべきです」 「平気よ。だって何かあれば、旦那様が守ってくださるでしょう?」  また計算しつくされた角度で首をかしげてみせる。ブロンドの髪が一房、肩から落ちた。サファイアの瞳が上目づかいに俺を見つめる。ね? と微笑みひとつ。 「……一刻だけです」 「いいわ。行きましょう」  結局俺は、彼女に逆らうことはできない。なにせ俺は彼女のもとに婿入りするため、この地に来たのだ。彼女の機嫌を損ねれば、路頭に迷う。 「旦那様ー。ほら早く!」 「はいはい」 「『はい』は一回」 「はい。……ほんとに一刻だけですよ」 「はいはい」
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