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職場見学は誰のため
「清香を呼べ。いないのか。じゃあ、お前が代わりに払っておけ」
「清香が出かけている? 儂が検査入院で帰ってこないからだと? あいつはどこへ行ったんだ」
「なら、今すぐ柊を呼べ! なんだと、柊もいないというのか! この家の奴らは儂が留守なのをいいことに……。」
「運転手を呼べ。儂が連れ戻しに行く」
その部屋には男が一人いて、突然、仁王立ちしたかと思うと怒鳴りだしたのだ。彼は次々と誰かを呼びつけている。そこにいたであろう人の返事をその男の言葉から推測するしかない。
「あー、二人は一緒にいるんだろ、わかっている。奴らを連れて戻ってくるまでにこの家の全員を集めろ。柊の家の者もだ」
そして、一旦静かになった男がどういうわけか嗤い始め、その嗤い声が段々と大きくなって――。
それまでただ黙って見ていた男二人のうち、施設の職員とわかる制服の男がその老人を一喝した。
「静かに!」
一方、学生服姿の青年は今までの見学の生徒たちのような表情を一度も見せることなく、淡々とした様子でついて歩く。
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