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「ここで柏葉くんの職場見学・体験の全日程終了。はじめに配布した資料の最終ページに今日の感想を書いて受付に出して帰るように」
「佐藤さん、あの人はどんな罪でここに入っているのですか?」
「ある町の名家の生まれで会社経営をしていたようだが、妻と使用人が恋仲になったと勘違いし、使用人全員を一室に集め、火を放った。そして閉じ込めた」
「助かった人は?」
「使用人の子は街に出ていて無事だった。詳しいことは今話すわけにはいかないことはわかるはず。実はね、加害者がどういうものかを知りたくて、僕はこの仕事に就いた」
「何故ですか?」
「僕が犯罪被害者遺族だからかな」
「えっ? 佐藤さんが?」
「柏葉くんも被害者遺族だと聞いている。君は名字や名前を変えようと思うことはない? そうしたところで過去が消えるわけではなく、データとして残る。もし、家族の敵をとろうとか恨みを晴らそうなどと考えて、この職業に就いたとしても、そいつがいる刑務所に配属されることなど絶対にない」
「……」
「最後に似た境遇の先輩として忠告するなら、自身がどうありたいかを考え、職業を選び、そのための進学先を決める方がいい。柏葉くんがより活かせる仕事が見つかるよう願っている」
佐藤の言葉に反論することなく柏葉は学生服の背中を伸ばした。
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