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プロローグ
炭火のニオイと肉が焼ける音がそこかしこで聞こえる。
先月オープンしたばかりだという有名な焼肉チェーンの新店舗。町家風の内装の廊下は、間接照明のみで照らされていてほの暗い。雰囲気抜群のこの店は全室個室で、さながら高級料亭のようだ。主にファミリー層をターゲットにしたリーズナブルさが売りだったはずなのだけど。
有馬宏太は少し怖くなってテーブルの端に立てられていたメニューを手に取って確かめた。パラパラとめくり、三桁の値段ばかりが踊る紙面に安堵の息を吐く。とは言っても、焼肉が自分にとって高級であることには変わりはなかったが。なにせこれまでの人生で、焼肉店に入ったことは片手の指より少ない。
「ごめん、遅れた」
そのままメニューを眺めていると、開いたままだった扉から、慌てた様子で男が入室してきた。
「いや、そんなに待ってないよ」
答えると男はもう一度謝罪をしてテーブルを挟んだ向かい側に座った。
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