第1話

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 入寮手続きを済ませ、荷解きをすると、すぐにバイトを探した。受験の際に事前に校則でバイトは禁じられていないことは確認していたが、特進科でアルバイトをしている生徒は誰もおらず、開校以来前例がないと告げられた。  しかし、有馬からしてみればそんなことは知ったことではない。前例がないのであれば自分がそれになればいいと思った。  四月第一週の金曜日。有名デザイナーが手がけたという、ベージュのジャケットにタータンチェックのボトムの制服をまとい入学式に臨んだ。 「続きまして、新入生代表挨拶」  司会進行を務める総務部長の声を合図に、有馬は起立する。  壇上へと進む有馬へと、無数の好奇の目が向けられた。矢のように突き刺さるそれらを、有馬は意に介さず登壇し、無表情で対峙した。 「あたたかい陽光、やわらかな風、美しい薄紅の花が咲き誇る中、私たちは協律館学園の生徒の一員となりました。本日は私たち新入生のためにこのような入学式を催していただきありがとうございます」  感情のこもっていない声で淀みなく挨拶をする有馬の手元には、メモすらない。
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