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進学校でもなんでもない、平凡な公立中学出身の有馬が入試トップを取ったことはかなり注目されたが、それも入学式から一週間もすればほとんどが興味を失った。
それは有馬が望んだことだった。
有馬の目的はあくまで、学費と寮費の免除対象となる成績をキープし続けること。そして、空いた時間をバイトに充てることだ。そのためには余計なエネルギーを使いたくなかった。
集団に埋没して、波風を立てないようにすることに努めた。
有馬の希望通りに自分が騒がれなくなったのは、ある男の存在も大きかった。
入学式から数日後には、学園内は有馬とは別の新入生の名前で持ち切りだった。
「俺さっき廊下で、初めて見たんだけど、RAIYA」
「ああ、市来頼弥? ヤバイよな」
教室、廊下、至る所で噂されていて、他者と交流のない有馬の耳にも勝手に男の情報が入ってきた。
両親が共にハーフで、中学の頃から『RAIYA』の名でモデルをしている。
祖父は国外に本社を置く、世界的に有名な化粧品会社の創業者。
美麗な顔立ちと優雅な立ち振る舞いは見る者の心を奪い、圧倒する。
噂の的である『市来頼弥』が、入学式の壇上で目が合った男と同一人物だと知ったのは、入学してからひと月経った頃だった。
頼弥はどこにいても目立ったし、いるだけで人だかりができた。
それでも有馬にとっては、ただの他人でしかない。
普通科である頼弥とは、卒業まで関わることはない。自分とは別世界の人間だった。
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