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だけど佑也はすでに独り立ちして、長女の眞子も直に社会人になるし、一番下の拓斗も自分の進路についてしっかりビジョンを持っていた。
もう、自分の手は必要ないのかもしれない。
「だから、兄ちゃんには、自分のことを考えて欲しい。これまで我慢してくれてた分、自分のために時間とかお金とか使って欲しい」
いつかこんな日が来ることはわかっていた。
弟たちが自分から巣立っていくのは嬉しく、そしてとてつもなく寂しくて、泣きそうだった。
それでも使命を失った寂寥感や虚無感はない。まっすぐ立派に育ってくれた弟たちを誇らしく思い、安堵の気持ちが滲んでくる。
――もしもあの夜がなければ。
今自分はこんな穏やかな気持ちではいられなかったのかもしれない。
有馬はそんな風に思い、テーブルの上にあった雑誌の表紙を見つめた。
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