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置引き?!
「えっと…あれ?」
なんだかデジャブを感じる状況に、思わず独り言が出てしまう。昨晩とほとんど変わらない時間に変わらない私がここにいる。違うことと言えば、感情的になってやさぐれてここに来たのが昨夜で、今はわりと落ち着いて諦めに似た感覚さえあった。
___トイレ!
ずっと歩いていて、トイレに行きたかったことを忘れていた。東屋から少し離れたところには、わりと綺麗な公衆トイレが見えた。少し考えたけど、キャリーケースは置いて貴重品だけを持ってトイレに入る。
___今夜も雨かぁ…
トイレから出て空を見上げた顔に、ぽつぽつと冷たい雫が落ちてきた。
___でも、昨夜よりはあったかいかな?
キャリーケースには上着も入れていたはずだし、一晩くらいなんとかなるだろうとここで夜明かしすることを決めた。公園にホームレスの人が集まるのがわかる気がする。とりあえず、トイレと飲み水はあるのだから。
私は周りを見渡し、せめて道路を通る人からは見えない場所を探した。赤と緑と黄色と青と、原色カラーの遊具が目に入る。土管と四角い箱を組み合わせたようなもので、大人でも中に入ることができる大きなものだった。子どもだったら秘密基地ごっことかしただろう。
近づいてみると、中から、うにゃっ!と何かが飛び出してきてうっかり尻もちをついてしまう。
「うわっ!痛っ!え?何?」
お尻についた湿った土を払いのけながら暗闇に目を凝らすと、飛び出してきたのはどうやら猫だったようだ。
「ごめんね、寝てるとこ起こしちゃって。私もお邪魔するね」
なんて呼び止めたのに、どこかへ行ってしまった。その時、ゴロゴロと聞き覚えのある音がする…。東屋を見たら、私のキャリーケースがどこかへ持ち去られようとしていた。
「あっ!こ、こらっ!それ、私の!!」
私に気づいて走って逃げる。
「こらぁーーっ!」
少し追いかけたけど、怖くなってやめた。このまま追いかけると街灯もない方に行くことになる。さすがにそれは怖い。
___スマホや財布などの貴重品は手元にあるし
明日にでも警察に届けることにして、お腹が空いたからコンビニを目指した。おにぎりとお茶を買って公園へ戻ることにする。ついでに段ボールをもらった。
___マジなホームレスだ…
気がついたら雨は上がっている。さっきの遊具の中に潜り込んだ。思ったよりあったかくて、ホッとする。
___色々あるけど、また明日考えよう
遊具の中でうずくまる私。同じ頃、少し離れた場所で私のキャリーケースが朔太郎によって拾われていたことを知ったのは、次の日だった。
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