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再び拾われる
頭が痛い…。そのうえ、身体中が錆び付いて軋んでるように動かしにくい。自分が寝ていて、目を覚さなければいけないのはわかっているのに、瞼は重い。
「え?そっち?」
「いや、こっちはもう見たから、そっちかな?」
じゃりじゃりと地面を踏んで歩く複数の人の気配と、男女二人の声…。
「あっ!」
「うわっ!!」
公園の遊具の中に寝ていたことを思い出して慌てて起き上がったのと同時に、寝ていた私を見つけてびっくりした人の声が重なった。
「こんなところにいたんですね?よかった」
「びっ、びっくりした、朔太郎さんじゃないですかっ!」
「びっくりしたのはこっちですよ、でも無事でよかったー。おーい、穂乃果、ここだよ、花梨さん見つけたよ」
遠くから駆け寄る足音が聞こえる。穂乃果といえば昨日私に朝ごはんを用意してくれた朔太郎の妹だ。
「ホントだ、こんなところにいたんだね!ってか、ここに寝たの?大丈夫?ケガとかしてない?」
うーんと、何から説明しようか考えながら朔太郎の手を見た。少し泥がついた私のキャリーケースがそこにある。
「えっ!なんでそれ、朔太郎さんが?」
「昨夜、ここを通って帰る途中に、これが散らばっているのが見えたんです。見覚えがあったので拾っておいたんですが。もしかして何かの事件に巻き込まれたかもしれないと思ったら気が気じゃなくて」
キャリーケースの留め具が壊れているのがわかった。お気に入りだったんだけど。
「ちょっと目を離した隙に置引きに遭って諦めてたんだけど。よかった、見つかって」
受け取って中身を見る。どういうわけか特に盗られたものは思い当たらない。服も下着もそのままだ。
「すみません、慌てて拾い集めたのでクシャクシャですが…」
「あっ!いえ、いいんです、たいしたものは入ってないし、特に盗られたものもないみたいだし」
「それならよかった」
穂乃果が、あのさぁ…と話に割り込んできた。
「それを見つけて持ち帰ったお兄ちゃんね、めちゃくちゃ慌ててたんだよ、花梨さんに何かあったんじゃないかって。夜中から探そうとしだすし、警察に届けようとしたのは私が止めたけどね。ただ捨てただけかもしれないよって」
事件に巻き込まれた、普通そう思う。まさかこんなところに寝てたなんて、いまさらながら恥ずかしくなって、また猫背になってしまう。
「すみません、助かりました」
「いいですが…、あの…、初めて見た時より今日はさらに薄汚れてますが…」
言いにくそうにする朔太郎。
「ホントに捨て猫みたいだよ、花梨ちゃん」
「面目ない…」
テヘヘと頭をかいたまま、思いがけず後ろへ倒れてしまった。
「ちょっ!花梨ちゃん!どうしたの?」
___あー、なんだかふわふわするなぁ
めったに出さない熱が、平衡感覚を失わせたようだ。
「歩けますか?」
朔太郎と穂乃果に連れられて、また私は朔太郎の部屋に向かうことになった。
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