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キャリーケースを置いて、東屋のベンチに座る。濡れてしまった服越しに、冷たくて硬いコンクリート製のベンチは、心まで寒々しくさせるようだ。
___ここじゃ風邪をひくし、かと言って実家には帰れないし
“結婚を前提に同棲するから”
そう言って家を出たから、今更、やっぱりダメでしたとは帰れない。家に帰れば、“さっさと結婚しろ(いい男限定で)”とうるさい両親と、何かにつけて対抗心を燃やす8歳下の妹の菜摘がいる。
“ほーらね、お姉ちゃんに結婚なんて無理だったでしょ?”
勝ち誇ったような憎たらしい顔で、下から見上げてくるに決まってる。
“お姉ちゃん、デカ過ぎるんだからせめて態度は大人しくしないと、男の人が逃げちゃうよ”
172㎝の私に155㎝の菜摘がいつも言うことだ。好きでこんなに成長したわけじゃないのにと思う。
「そうだ、アイツに電話してみよう」
駿と同棲するまでにつきあっていた男たちに次々と連絡してみた。誰か一人くらい、私を部屋に泊めてくれるヤツがいるだろうと予想して。
『はぁ?何を今ごろ…。俺はお前に捨てられた男なの、わかる?困ったからって連絡されても助ける義理なんかないね。もう連絡してくるなよ』
直後にブロックされる。
4人に連絡して、すべて同じ回答。私は元彼たちにそんなに酷い仕打ちをしたのだろうか?付き合ってる当時は、それぞれに愛の言葉も囁き合ったし、お料理もセックスも女としての嗜みは披露してかいがいしく尽くしたはずなんだけど。
_____仕方ないと言えば仕方ないか
私から接近して、私から別れを切り出してきたのだから。理由は一つだけ、“他に好きな人ができました”。それでも私はきちんとケジメをつけてから次の人へいったのに。駿みたいに、こんな卑怯なことはしなかったはずなのに。
突然先行きが見えなくなった自分の人生とやらに、漠然とした不安が積もってきた。さっきまで明るく照らされていた東屋も、時間が遅くなったからか照明が落とされていく。
___うそ、こんなとこで一人、夜をやり過ごすの?いやだ…
「クシュン!寒っ」
興奮してさっきまでは感じなかった寒さが、足先からかけ上がってくる。
「ヘックシュン!」
両手で自分を抱きしめて身震いをした時、ふわりと頭からタオルが被せられた。
「どうしましたか?」
「え?」
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