177人が本棚に入れています
本棚に追加
終わりは始まりだった
「わかったわよ、もう終わりってことよね?後悔しても知らないんだから!」
「いいから、さっさと出て行けよ、残ってる荷物は後で送り返すから」
「そんなの、もういらないから捨てといて。これもお返しするから、その子にでもあげなさいよ!」
私は左手の中指に嵌めていたアクアマリンの指輪を、さっきからずっと背中を向けている男に投げつけた。指輪は男の背中に当たると、チャリンと軽い金属の音をさせてあっというまにどこかへ飛んでいってしまった。
「駿ちゃん…、怖い…」
「あー、ちょっと辛抱な、あんなのすぐいなくなるから。ほら、用が済んだら早く行けよ」
小柄な女の子が、男の背中越しにこちらを見ている。私の剣幕に怯えているかと思えばそうでもなく、怖がっているセリフとは裏腹に、男に見えない位置から勝ち誇った目線を私に向けてきた。
「私の勝ちね」
そう言ってるように見えた。
___あったまにきた!!
キーケースから、合鍵を外して同じように投げつける。これも男の背中に命中した。
「いてっ!何するんだよ!」
男が立ち上がってこっちにくるのが見えたので、慌てて隣の部屋に行きドアを閉めた。
◇◇◇◇◇
ガラガラと音がするキャリーケースには、さっき手当たり次第に詰め込んだ私物が入っている。半年前に駿と同棲を始めてから、少しずつ実家からこの部屋に運び込んだものだった。
私という恋人がいるのに、私よりずっと若い女を同棲している部屋に連れ込んだ男、萩原駿。同期の中では一番の出世頭で、背も高く顔もよく収入もまぁまぁよかった。
___あと少しで結婚できるはずだったのに
私の見る目がなかったのか、それともアイツが相当な悪男だったということか。一体いつからあの子と付き合ってたのだろう?仕事もそこそこ忙しかったから、気づかなかった。
売り言葉に買い言葉で部屋を出てきてしまったが、この後のことを考えていなかった。
「はぁー、どうしようかな…」
行くあてもなく歩いていたら、ポツリと冷たい雫が頬に当たった。
「うそ!雨?あーっ!傘忘れた!!」
勢いで部屋を出てきたから、お気に入りの傘を玄関に置いてきてしまった。
___このままじゃ濡れ鼠になってしまう
辺りを見渡したら近くに公園がある。その奥にある東屋まで急いだ。
最初のコメントを投稿しよう!