王を呼べ

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 「王を呼べ!!!」  そんな怒号が王宮を取り囲む人々から響き渡る。  「早く王を呼べ!!!」  また怒号が響く。  この王は自らのために散々私腹を肥やし人々の生活を苦しめ続けている。そんな人々の不満が遂に爆発し王宮を取り囲む事態になっている。   王宮内  「ええい!さっさと黙らせんか!!!」  王が部下の者たちに怒声を浴びせていた。  「し、しかしですね。王自らが出ない限りは民たちも納得はしません!」  「この中に余が出てみよ、どうなるか分らんではないか!?」  外の群衆たちに指を向けてそう叫ぶ。  「いいから黙らせんか!!」  「無、無茶です!!」  兵士と王との話は平行線となり全く纏まらない。 王宮の外  「これだけ騒いでも出てこないのか!?」  誰かがそんな声を上げた。  「こうなったら無理矢理にでも入るぞ!!!」  「そうだ!」  「おう!!」  「まぁ、待ちなよ」  無理矢理にでも入ろうという話で再び人々が動こうとしたときリンとした男性の声が響いた。  「だ、誰だ?」  そんな戸惑いの声が聞こえてきた。  「ここだよ」  再び聞こえた声に人々は声の主を探す。  「あ、あそこだ!」  そこにいたのは王宮の塀に座って目深にフードを被って顔を伺えない人物であった。  「俺が話してくるからもう少し待っていてくれないか?」  「な、何者なんだ!」  誰かがそう叫ぶ。  「そんなのはどうでもいいだろう。頼めないか?」  「・・・」  男の発言は静かだがどこか反対する声を黙らせることが出来る声で人々もその声に静かになった。  「ありがとう」  そういうと男は王宮内へと入っていった。人々はそれを黙って見送るしかなかった。   王宮内  「なんだ?急に静かになったぞ」  王は外が静かになったことに訝し気になる。  「おい、何があったか調べてこい」  隊長が部下に指示を出す。  「は!」  部下が外に出ていく。  ドガン!  「ぐは!」  うめき声と共にドアを突き破り先ほど外の様子を見に行った兵士が突き飛ばされてきた。  「!!!」  これには部屋にいた全員が驚いた。  「だ、大丈夫か!?」  隊長が部下に近づき声を掛けるが気を失ったのか返事はない。  「全く、人が留守の間にいったい何をしているんだ」  話しながらドアから入ってきたのはフードを被った男であった。  「き、貴様何者だ!?」  「陛下お下がりを!」  王は指をさしながら相手に聞き兵士たちはすぐさま王を守るように守備体勢に入る。  「言っただろ?人が留守の間に何をしているんだ、と」  「ま、まさか!?」  王は心当たりがあるのか顔が真っ青になった。  「全くお前がここまで使えないとは思わなかったぞ」  そう言いながらフードの男はフードを脱ぎ取った。  「へ、陛下・・・・?」  兵士の誰かが呟いた。その顔は陛下にそっくりだったのである。  「ま、まさか・・・・!」  隊長はすぐに何かに気が付いたようだ。  「そうだよ隊長さんそいつは只の影武者だよ」  「!!!!」  その男の言葉に全員が驚き声が出なかった。  「い、一体いつから?」  隊長が聞く。  「二年ほど前からか。そいつがあるとき俺にこう言ってきたんだ『陛下すぐにご支度を陛下の命がどうやら狙われている模様です。しばしの間どこかに隠れてくださいませ。後は私の方でうまくやっておきますので』ってな。まぁ、こいつの魂胆は分かっていたが俺も休暇が欲しいと思っていたからそいつの誘いに乗ったんだが。二年の間に随分と廃れさせたものだな」  最後はどすのきいた低い声で影武者に話す。  「ひっ!」  その声に影武者は腰が抜けたのか悲鳴を上げて座り込む。  「この大バカ者を捕らえろ」  本当の王が兵士たちに命じる。  「はっ!」  「へ、陛下!お、お許しを!」  影武者は王に許しを請う。  「ならん。貴様はこの国を廃れさせたその責は重い。民の前に出るぞ」  王は門に向かって歩きだす。  「お、お待ちください!陛下、今向かわれたところで民たちが話を聞くとは思えません!」  「そうかもな。だが、ここで出なければ民たちは二度と信じないだろう」  「それは、そうですが・・・」  「ほれ、行くぞ。民たちが待っている」  そう言って王は兵士と影武者を連れて国民の前へと出ていく。
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