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「へぇーめっちゃいい同期じゃーん。裕哉のこと助けてくれたんでしょー?」
「己への批判も恐れないとは、善良な陽キャもいたものですな」
営業部の先輩に絡まれた日の夜、裕哉はいつものように自室のテレビ前でコントローラーを握っていた。目の前のローテーブルには空になったコンビニ弁当が置かれている。
「俺みたいな同期を先輩に見られたくなかったんじゃねぇの? だからさっさと追い払ったとか」
「後川君はネガティブ思考過ぎますぞ」
テレビ画面に表示されているキャラクターがやれやれと首を振る。
仕事の後や休日は、こうして大学時代のサークル仲間と共に、通話しながらオンラインゲームをするのが裕哉の日課だった。
「伊勢田も橘もあいつの味方かよ……」
「だって研修の頃から気にかけてくれてるんだよねー? それはもう純粋にいい人なんじゃないかなぁー」
間延びした伊勢田の言葉は楽観的なものだが、裕哉たちの中では彼が一番人と接する機会が多く、知り合いも多い。言葉に説得力がある。
「まぁ後川君の気持ちもわかりますな。我々の人生において陽キャは基本的に天敵ですし」
独特な言葉遣いをする橘とは、サークルの他にアルバイト先でも同僚として過ごした間柄だ。長い時間を共にした分、裕哉のことをよく理解していて、彼の同調の言葉にホッとする。
「悪いやつじゃないとしても、俺とあいつじゃ住む世界が違えから。あんま関わりたくないし明日から裏の出入り口使うわ」
「わぁ暗い。暗いよ裕哉〜」
伊勢田の操作する少女キャラクターが、画面の中ではしゃぐように体を揺らす。
「話してみたら友達になれるかもしれないのにー」
「そんなわけねーよ。イケメンの陽キャはオンラインゲームなんかやらねぇって」
七斗はきっと、友達に会うならば当然のように食事や飲み会といった手段を選ぶだろう。いい歳した大人がゲーム上でだらだらと時間を浪費するなんて発想には至らない。
裕哉と七斗では住む世界も考え方も違う、まるで別の生き物だ。
「それより早くダンジョン入ろうぜ。まだ順番来ねえの?」
「まぁまぁちょっと待ちなー。そろそろじゃーん?」
伊勢田の言葉の通り、テレビ画面上に順番が来たことを示すアラームが表示された。
待ってましたというように橘のキャラクターが立ち上がる。
「今日こそラスボス撃破してこのダンジョンともおさらばしたいですな」
「それなー。練習始めてもう2ヶ月くらい?諦めの早い裕哉がよくもったよねー」
「引き際を弁えてんだよ俺は」
諦めているわけではない。自分の身の程を知っているだけだ。
客の前でキラキラした笑顔を振りまいて会社の売り上げに貢献する七斗と、今日も明日も変わらず社内のサーバールームに一人籠る裕哉とでは、周りからの評価が天と地ほども違う。
それが己の身分なのだとただ受け入れている裕哉が、自ら七斗と仲良くなろうなんて発想に至るはずもない。
裕哉はコントローラーを握り直して、目の前の画面に神経を集中させた。
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