同棲編・3

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同棲編・3

 性欲は人並みにあると思っている。  中学生のときに精通してからしばらくは、性に対して興味を持つことはあまりなく毎日ゲームを消化することに夢中で、時々思い出しては適当に処理をする程度だった。  高校に上がってからだろうか。ネットで男性の性欲を煽るような広告を頻繁に見かけるようになって、動画サイトを覗いては定期的に自慰をするようになった。それは大人になっても変わらず、その時々で気分に合った適当な動画を探し、一人で発散していた。七斗と付き合うまでは。  どこにでもいる、一般的な男性の性生活だったと思う。ただ、他人と触れ合う類の経験は皆無だったため、それがここにきて致命傷になった。 「ひっ、う、あ……!」  自分のものとは思えないような、高くて媚びた声がこぼれ落ちる。ベッドの上で胡座になった七斗の脚に向かい合って跨り、裕哉は両手でその肩にしがみ付いていた。 「裕哉、気持ち良さそうだね。良かった」  優しい笑みとは裏腹に、手の動きは緩められる気配がない。互いのものを重ねて擦り合わせながら、七斗の大きな手で一緒に握られる。  パジャマを脱ぎ互いに全裸を晒しているだけでも恥ずかしいというのに。自分以外の手から与えられる刺激は自慰によるそれとは全く別物だった。  上下に擦ったかと思えば、カリ首をぐるりと撫でられて、指先に先端を弄ばれる。我慢できずに溢れ出る透明な体液を絡ませて、滑りの良くなった手がさらに裕哉を責め立てる。次に何をされるのか予想できない。  気を抜けばあっという間に達してしまいそうな快感を逃がそうとして、喉が鳴くのを止められなかった。 「あ、いゃ、やだ、七斗……電気、消せって……っ」 「これは常夜灯だよ。さっきより暗いでしょ? 消したら何も見えなくなっちゃう」  いっそ何も見えないほうが良かった。七斗の逞しい体も、興奮して汗ばんだ顔も、初めて触れる情報が多すぎて頭が追い付かない。堪えたい気持ちに反して次々に出る自分の喘ぎ声も、恥ずかしくてたまらない。 「僕は裕哉のことしっかり見ていたいから、真っ暗は困るなぁ」  空いている左手が耳の後ろあたりに添えられる。くしゃりと髪を撫でられて、視線を合わせると、熱い息を吐いた七斗が目を細めた。 「……すごくえっちな顔してるね」 「っ、そんな、見んなよ」 「やだよ。ちゃんと見せて」  足の間からぐちゅ、と濡れた音が聞こえて腰が震える。張り詰めた七斗のものは想像していたよりもずっと大きくて、浮き出た血管や、脈打っている様子まで感じられて腹の奥が疼く。  本当に、これが自分の中に入るようになるのだろうか。  互いのものが擦れるたびにいやらしい音がして透明な糸を引く。出口を求めて渦巻く熱が腰に集まり、与えられる快感を散らそうとして身を捩れば、腰を振るような動きになってしまった。  七斗がごくりと喉を鳴らす。 「うわ、それエロい……」 「はぁ、う……だって…んぁ、ななとの、手、しつこいぃ……っ!」  ぷくりと先から体液を滲ませる鈴口を、七斗の親指が執拗にくりくりと撫で回す。逃げようと腰を引けば裏筋が擦れ合って、電流が走ったように痺れる体からは力が抜けて、また好きなように弄られる。  繰り返されれば、限界なんてすぐだった。 「あっ、あぅ…!……ななと、おれ、もう出したい……イきそ…っ」  肩に捕まっていた手を滑らせ、両腕で七斗の首を引き寄せる。顔を見られたくない故の行動なのだが、荒い息遣いが近くなり、密着する面積が増して、余計に気持ちを昂らせることになってしまった。  ふ、と短く息を吐いた七斗の手が速くなる。誰かの手で高められる初めての感覚に少し怯えながら、必死に縋りついた。 「あ、あっ、あぁーー……!」  裕哉の頭を撫でていた手が移動して、力み浮き上がった背骨を下からするりと撫で上げる。えも言われぬ感覚が走り抜けた瞬間、細く高い声を上げて、七斗の手に吐き出した。
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