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言葉の出てこない裕哉が必死に考えている横で、七斗は興味深そうにキョロキョロしながら店の中へと入っていってしまった。
「お、おい、檜前!」
ショッピングモールのゲーセンはさておき、こんな繁華街に古くからあるゲームセンターに、爽やかイケメンは来店しない。来るのは裕哉のようなオタクと、暇を持て余した夜の街の住人と、筐体の前で煙草をふかすちょっと柄の悪い人間。
見るからに金持ちそうな七斗が、悪い人間に絡まれたら困る。「後川についていったら酷い目にあった」なんて言いふらされたら、さらに困る。
慌てて自分も自動ドアをくぐり、奥へ入っていく七斗の背中を追いかけた。
ゲームセンターの入り口近くは、基本的にぬいぐるみや菓子のクレーンゲームが何台も並べられている。年齢や性別を問わず多くの客を呼び寄せるためだ。
観光客や学校帰りの学生で混雑するフロアを抜け、奥へ進むとスタッフルームの隣にひっそりと地下へ続く狭い階段が現れる。
照明が少なくて薄暗く、クレーンゲームの賑やかな音楽や客の喋り声が少し遠く感じられる。階段を囲む壁には、過度に肌を露出したキャラクターのマニアックなポスターがびっしりと貼られていて、まるで異世界へ続いているような雰囲気を放っていた。
普通の客は決して近寄らない異様な空間へ、七斗は何の迷いもなく足を踏み入れていく。
軽い足取りで下りていく七斗の後ろで、裕哉は嫌な汗が止まらなかった。
「あのさ、ここまで来て言うのもアレだけど、きっとお前が思ってるような楽しい場所じゃね……ない、よ」
「そんなことないよ。後川が楽しいって思うものなら、僕も楽しいかもしれないし。今の時点でわくわくしてる」
狭い階段を下りながら珍しそうに周りのポスターに目を向ける。肌を晒した女性キャラクターが際どいポーズで顔を赤らめていて、それを見る七斗は何を考えているのだろうと思うと、居た堪れなかった。
一番下まで辿り着きフロアに入った瞬間、籠った熱気と煙草の匂いに包まれた。
階段を下りた目の前で換気扇が大きな音を立てて回っており、上へ淀んだ空気が流れることを防いでいる。換気扇は年季が入っていてかなりの轟音を立てているが、そんな音も気にならないくらい、フロアはゲームの機械音で溢れかえっていた。
七斗が驚いたように目を見張る。
「すごい……! 知らないゲームばっかりだ。人も思ったよりたくさんいる」
「え、なんだって?」
あちこちで鳴る音に遮られて互いの声もよく聞こえない。
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