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 途切れて聞こえない声に裕哉が顔をしかめると、七斗はずいっ、と顔を寄せてきた。  突然のことに思わず裕哉の肩が跳ねる。 「後川は、どれで遊ぶの?」  ゲームの音に負けない大きな声で、はっきりと口を動かして話す七斗の顔があまりに近くて、耐えられず目を逸らす。  近くで見ても欠点が見つからないくらいには整っていて、その瞳で真っ直ぐ見つめられると落ち着かない気持ちになった。 「こ、こっち!」  特に騒音の大きいエリアを抜けるため、裕哉は七斗の前を歩き始める。離れずについてきてくれればそれで良かったのだが、何を思ったのか七斗は裕哉のジャージの袖を掴んできた。  これが陽キャの距離感。イケメンにこんなことをされたら勘違いしてしまう女性もいるだろう。  どんな反応をしていいかわからず、何もなかったかのように裕哉は平静を装って歩いた。  裕哉がここに来てプレイするゲームは決まっている。人混みの間をぬって進み、奥へ行くほど周りの音も多少落ち着いて話し声くらいは普通に聞き取れるようになる。  角を曲がって目的のゲーム機が見えた時、裕哉のことを待っていた伊勢田と橘の姿も見えた。 「あっ、裕哉……って、あれー?」  すぐにこちらに気付いたのは伊勢田だった。裕哉とその後ろの七斗を見て、サッと隣の橘に耳打ちする。  また面白おかしく話のネタにされてしまう。顔を引きつらせながら、裕哉は二人に手を上げて挨拶した。 「……よー、ごめん、待たせた」 「いやいや、我々も今来たところですから。気になさらず」  橘がゲーム機前の椅子に座ったまま顔を上げる。一見すると普段となんら変わりなく、丸い顔に柔らかい笑みを浮かべているが、眼鏡の奥では両眼が興味津々といった様子で弧を描いていた。  その横に立つ伊勢田は一つに束ねた真っ赤な髪を揺らして、薄く化粧した小綺麗な顔でにんまりと笑う。 「それよりさ、紹介してよー。ね、君が噂の檜前くんでしょー?」 「噂の……?」  伊勢田の言葉に七斗は首を傾げる。余計な一言を放った伊勢田に若干顔をしかめつつ、裕哉は双方に目配せをした。 「大学で同じサークルだった、橘と伊勢田。で……同期の、檜前」 「檜前です。よろしくお願いします」  会釈した七斗に、伊勢田は目を輝かせる。 「嬉しいなー、裕哉が会社の友達連れてくるなんて初めてだよー!」  友達、という言葉を否定しようとして、やめた。言われた七斗が思いの外嬉しそうに笑ったからだ。
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