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「皆さんは、よくここに来るんですか?」 「あ〜堅苦しいのは無し無しー。ここゲーセンだし、檜前君も楽にしてー。よければあっちのカウンターでお酒も買えるよー」  伊勢田は想定外だった七斗の登場がよほど嬉しいのか、それとも美容師という接客業の血が疼くのか、やたら楽しそうだった。 「火曜の夜はほぼここに来ますな。三人で朝までゲーム三昧なのですよ。まぁ後川君は途中仮眠を取ったりもしますが」  つらつらとご丁寧に説明する橘に、裕哉は頭を抱えた。  こんなマニアックな場所で遊んでいるだけでなく、毎週通って朝まで過ごしているなんて、会社の人間には知られたくなかった。  今度こそ、軽蔑されただろうか。  恐る恐る七斗の顔を覗き見ると、裕哉の想像に反し、七斗の顔は明るかった。 「後川にこんな楽しそうな趣味があるなんて知らなかった。それで、まずどれで遊ぶの?」  軽蔑するどころか、興味津々といった様子でまるで少年のような目をしている。ひどい言葉の一つでも浴びせられると思っていた裕哉は驚き、伊勢田に肩を小突かれてやっと我に返った。 「そ、そうだな。いつもはだいたい、この辺の格ゲーから……」  周りから見て、自分はヒエラルキー的に下のほうの人間だと思っている。だから、今まで自分を馬鹿にされても、非難されても、当然だと思ったから言い返せなかったし、できるだけそういう状況を避けて生きてきた。  本来なら自分を見下してくるはずの、世間的に勝ち組と呼ばれる人間である七斗。その彼が自分に理解を示しさらに好意的な態度をとってくることが、裕哉には信じられず、理解できないことだった。 「(やっぱり変なやつだな……)」  伊勢田や橘からゲームの説明を受けて、スーツ姿で楽しそうにはしゃぐ横顔を見て、裕哉はそう思わずにはいられなかった。 「俺はどうせ底辺の人間だからさぁ〜別にいいんだよ、営業部のやつらに何言われたってぇ……でも同期の前で言うことなくねぇ?」  頭が、体がフワフワする。握ったチューハイの缶にはまだ少しだけ中身が残っていたが、ベンチの隣に座る七斗に取り上げられてしまった。 「こぼしそうで危ないからちょうだい。後川、お酒弱かったんだね」  奪った缶の中身をそのまま飲み干して、足元に置く。目の前の筐体では橘と伊勢田がシューティングゲームに没頭していて、裕哉と七斗はその背中を眺めながら酒を飲んでいた。  会社の同期で出世頭と言われている、自分とは正反対の世界を生きているはずの七斗が、今自分たちと時間を共有している。この異常事態に対して裕哉の理解力が限界を超えて、戸惑いや疑念を誤魔化すために酒をあおった。  元々強いわけではない裕哉はあっという間に酒が回り、結果、こうして七斗の隣で愚痴を垂れ流すことになっている。
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