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〇〇月〇〇日 夜
パシン、と乾いた音が室内に響き渡る。
「痛っ!」
ピリピリ痛みを感じる方向に視線を上げると、先輩の警察官が腕を組みながらじっと見下ろしていた。怖いのはいつものことだったが、真面目で優秀な憧れの先輩だった。
「ちょっと考え事してただけっすよ。先輩」
若い警察官は、目の下にできたクマを擦りながら飄々と言い訳をする。
「じゃあ、何考えてたか説明してみろ」
「え? いや、それは……。ちょっと…」
(言ったら絶対怒られるし)
ためらうように視線を左右に向けていると、その様子が伝わったのか、先輩警察官がたたみかけるような勢いで叱責する。
「やっぱり寝てたんじゃねぇか、こら!死ぬ気で起きろ!眠いのはみんな同じなんだよ!」
これでも、学生の時は居眠りをしないという特技があった。それを、ただ居眠りしていただけのやつだとは思われたくないので、すかさず反論する。
「違いますよ!毎朝交番の前を通るきれいなお姉さん、今ごろ可愛い部屋着でも着て、夕飯食べてるのかなあって考えてたんです」
思っていたことを包み隠さず誠実に話したつもりだったが、逆効果のようだった。先輩警察官の鋭く冷たい視線が、顔面を貫く。
「正直に話したのに」と少し凹んだ。自分の取り柄といえば、誰とでも明るく話せるところと、正直なところだと思っていたから。
「お前、もっと気を引き締めろよ」
先輩警察官は、冷めたトーンでそう吐き捨てると、スタスタと別室に行ってしまった。
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