知らない大人

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「大人を呼べ!!」 親にはよく言われた言葉だ。 何かあれば大人が助けになってくれる 間違いではないだろう だが、私はこの言葉が嫌いだった 知らない大人にはついていくな、知らない大人から物を貰うな、知らない大人を信じてはいけない そう口酸っぱく言われてもいたからだ 子供ながらに、知らない大人は本当に助けてくれるのだろうか?そう矛盾を感じていた そんな事を考えていた頃から10年経った今、やっと矛盾が解けたのだ 駅のホームに早く着いたその日、ホームの柱の横にカバンを枕にして寝ているおじさんがいた 見る限り酔っ払い、自力では帰れなくなったのだろう 私は無意識にそのおじさんから離れようと一つ向こうの柱に向かおうとしていた 「ちょっと君。」 私は声をかけられたその時、知らない大人に話しかけられるのはこんなにも緊張し、構えてしまうものなのだと思った その他に偏見があったのは事実ではあるが、私は小さい声で返事をし振り返った 「はい…」 「財布落としたよ。気を付けなよ、知らない大人に使われるよ。」 「ありがとうございます。気を付けます…」 話したのはほんの数秒でおじさんはその後すぐに去って行ったが、その数秒で私の中での印象は180度変わっていた 寝ている所を見て無意識に関わりたく無いと避けようとした人に私は助けられたのだ もし知らない子供が助けを求めていたならおじさんは救いの手を差し伸べていただろう 私はこの瞬間に理解していた 元々誰しもが知らない大人であり、交流を深める事で知っている大人に変わる しかし、大切なのは知らないか知っているかではなく、知らない大人でも知っている大人でも良い人と悪い人がいるということ ただ知らない大人には偏見がつきものであり、印象だけで信じるのは難しいこと 助けを求めて来てくれる人は良い大人だということ そして、例え些細なことでも良い知らない大人になるのも悪くないと電車に揺られながら私は思っていた end
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