ヒーローホイッスル

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 第二次怪人獣災害から10年経った今、僕は高校生になっていた。 「村田君いるかな?」  昼休み、教室で昼ご飯を食べていると、垣野大地(かきのだいち)が僕のことを呼びに来た。好青年のように振舞う彼は不気味なほど爽やかに僕の名前を呼んだ。村田君だなんて気持ち悪い呼び方しやがって。  いつもの取り巻きも一緒のようだ。 「何?」  僕は垣野を睨みつけながらそう言った。 「いやあ、ちょっと用事があったんだけど……村田君借りていい?」  僕と昼ご飯を食べていた友達たちに垣野がそう言って尋ねると、友達のうちの一人がこう言った。 「もちろんだよ! 村田は本当に垣野君たちと仲がいいね」  他の友達も承諾し、僕は仕方なくその場を後にした。彼らは何も知らないのだから仕方ない。垣野はこうやって裏表の表情を使い分けて小賢しく立ち回っているようだ。  僕は仕方なく垣野たちについていき、校内の人目のつかない場所まで連れていかれた。そこに着くや否や垣野は僕の腹めがけて蹴りを入れてきた。急なことで、僕はその場でうずくまって立ちあがることができなかった。 「お前、あんまりふざけたことするなよ? 無能力者の分際でなめたことしやがって」  無能力者というのは異能者たちが異能を持たない人々のことを見下す言葉、つまり差別用語だ。異能者の数は圧倒的に少ないものの、異能者たちがそういう類の言葉を使うらしい。 「ふざけてるのはどっちだよ……お前らだろ?」  力を振り絞って立ち上がり、垣野に向かって殴りかかろうとしたが、それも虚しく阻まれた。僕の体は宙に浮き、拳は垣野へ届くことはなかった。空中でじたばたと動くとこはできるけれど一向に前に進まなかった。 「お前馬鹿なの? 無能力者が異能者に敵うわけないじゃん」  そう言いながら空中に浮いたままの僕にめがけてまた一発蹴りを入れてきた。 「で、本題なんだけど今日は持ってきてるよね、お金?」 「持ってきてるわけないだろ。お前らになんか渡すわけない」 「あー、そうなんだ。俺、昨日も言ったよね? 約束守らない奴は嫌いだって。今日までに持って来いって言ったよね? 払う気ある?」 「あるわけないだろ! 何度言われても同じだ!」  こいつらに渡すくらいなら捨てる方が何百倍もましだ。こんなクズどもの思い通りになってたまるか。 「そうなんだ。じゃあいいや。覚悟しといてね」  そう言って、思いの外あっさりと去っていった。垣野が遠ざかると僕の体も地面に落ちた。
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