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あと三十分で大晦日になる。日付が変わりそうな深夜に、板倉は一人居酒屋で呑んでいた。酔っぱらった彼の口から、独り言がもれていた。
「ちくしょう」
商品回収は今日やっと終わった。予想より商品は広がっておらず、卸業者のところで大部分は止められた。口の悪い課長も動いてくれたお蔭もあって、年内に何とか終わらせることができた。ラッキーだった。
しかし早苗とのデートは諦めざるを得なかった。電話でキャンセルを伝えると、早苗は「そうですか」と答えた。それを聞いて、安堵と残念さが入り混じった想いになった。「わたしと仕事、どっちが大事なの?」そう責められるよりマシかもしれない。いや、太田さんはそんな子じゃない、未亜と違って。
アルコールで混濁した板倉の脳裏に、昔のことが蘇る。休日出勤の朝、ベッドで未亜は彼を引き留めた。行かないで、淋しい、一緒にいて。
「一晩中ずっと一緒だったじゃないか。君は大事だけど、俺がクビになるわけにはいかないだろう?」
板倉の言葉に、イヤイヤと未亜は首を振った。愛されている、と当時は思った。
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