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駅をくぐり抜けて少し歩くと、ビル街が切れて大きな公園になった。大階段を下りた底に水が蓄えられ、さざ波が押し寄せている。水路の両側の広い歩道に明かりが点々と並んでいた。この水は水路で遠い海とつながっている。
季節のいい時なら、市民の憩いの場として賑わう公園だが、一月の寒さの中、人もまばらだった。早苗に導かれ、板倉といつきは、黙々と歩いていた。
「ここ、ここです」
早苗の指さした先に、一台のキッチンカーがぼつんと駐車していた。薄暗い空の下、キッチンカーは暖かそうに輝いていた。早苗は駆け寄ると、三人分注文した。
「ここのスパイシーチキンに最近はまってて、とてもおいしいから、二人にも食べさせたくて。はい、どうぞ」
早苗から渡されたチキンを板倉はかじる。コクのあるたれの中に、程よい辛みが来て、確かに美味い。
「本当だ。美味しいね」
いつきが喜びの声を上げた。
「でも、どうしてチキンおごってくれるの?」
「いつきと板倉さんは、ESプロジェクトで去年すごく頑張っていたから、打ち上げしてあげたいなと思って。わたしのお金じゃ、こんなささやかなんだけど」
板倉は思わず早苗を見た。厚手のコートの襟に包まれて、早苗の白い顔が闇に浮かびあがる。早苗は花のように微笑んでいて、とても無邪気そうに見えた。
何なんだ、これは? どういうつもりなんだ?
俺は君をデートに誘った。しかし、仕事が忙しくて、自分で誘ったデートを自分でキャンセルせざるを得なかった。俺の気持ちが伝わっているだろう。それでいて、こんなことをするのか。それも前橋と一緒に。友達、と一線を引かれているのか。
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