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その時スパーンという音と共に、後頭部に衝撃が走り、板倉はつんのめった。
「痛」
誰だ、俺を叩いたのは。頭を手で押さえながら振り向くと、丸めた書類を持ったまま腕組みして、前橋いつきが睨んでいた。
「前橋! 先輩の頭を突然はたく奴がいるか!」
「仕事中に後輩を口説く先輩の方があり得ないですけど」
いつきが口を尖らせる。板倉は苦笑いした。
「わずかなチャンスも逃さずゲット。これ営業の心得なり」
「営業の心得だか何だか知りませんが」
いつきが腕組みを解いて、大きく息を吐いた。
「早苗の発達障害のことは知ってるんでしょ。こんなところで突然愛を語られたって、早苗は混乱するだけです。止めて下さい」
「そうか、わかったよ。ところでESプロジェクトの中間報告書を出したよ」
板倉は強引に話題を変えた。何とか、この恥ずかしさを誤魔化したかった。
「え、どうでしたか?」
「室長に大分直されたよ。あの人、本当によく見てるよな」
ほぼ全文に赤ペンが入って返された報告書を思い出す。
「ダメですか?」
「いや、最後には面白い。着眼点がユニークでいいって、さ」
やった、といつきは小さくガッツポーズをした。
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