10人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
2.
皆が見ている前で質問するということもあってか、たけもと様の呼び出しはまるで朝礼か何かのように無難に済ませられるルーチンと化していた。
たいていの者は答えを知ろうが知るまいが大した影響は無いこと――例えば、次の野球の試合の勝敗などだ――を尋ねていた。
これがもう少し大人、あるいは都会の人間であれば、例えば競馬などの結果を尋ねて大金をせしめようと企む者もいたかもしれない。しかし村の子供達にとって、そういったものはあまりに縁遠かった。
多少でも刺激のあるイベントがあったとすれば、ある少年が、自分が同級生の少女とつき合えるかと尋ねたことくらいだろう。その日は「はい」の日で、予想通り彼は「はい」という返答をもらい、そしてその後、彼ら二人は実際につき合い始めた。
質問をしてからたけもと様の返答をもらえるまでの僅かな時間、彼の顔は緊張で強張っていた。いかにその日は「はい」の番だったとはいえ、例外が起こらないとも言い切れないと考えていたのだろう。
しかし窓香の説に従うなら、つき合えるかという聞き方をした時点で、彼の望みが叶うことは確定していたのだ。もしつき合えないというのが正しい答えなら、彼はつき合うのは無理かという聞き方をしてしまっていたはずなのだから。
こっくりさんの登場する怪談ではたいていの場合、最後はそれらに「お帰りください」とお願いしても「いいえ」と返答されて帰ってくれず、呼び出した者達は怖ろしい目に遭うのがお約束だ。
しかしたけもと様は一日につき一つの質問に答えたら必ず帰るのでそういったことも起こらず、日々は平穏に過ぎていった。
だがある日、俺の平穏は突如として破られた。
といっても、それはたけもと様とは全く関係の無いところで、である。
体の不調を訴え都会の病院へと検査を受けに行った俺の母が、末期のがんだと分かったのだ。見つかった時にはもう手遅れで、母は間も無く帰らぬ人となった。
もっと早く分かっていれば手の施しようもあったと知って、俺は悔やんだ。
今にして思えば、母はしばらく前から顔色が悪かったように思う。どうして俺を含め周囲の人間の誰も、それに気づいて早めに病院に行くよう勧めなかったのか。
俺の後悔と怒りは、たけもと様へも向けられた。
たけもと様は何でも知っているはずだ。それなのに何故、手遅れになる前に教えてくれなかったのか。
もちろん、冷静に考えればこんなのは単なる八つ当たりだ。たけもと様はこちらが尋ねたことにだけ答えてくれるのだから、聞かれてもいないことを教えてくれるはずもない。
しかしこの時の俺は、そんな風に冷静に考えることはできなかった。
そんな俺にも、たけもと様を呼ぶ番は回ってくる。
たけもと様への怒りを燻らせたままの俺は、せめてたけもと様に嫌がらせの一つでもしてやりたいと考えた。
何でも知っていて必ず正しい答えを返すたけもと様に、間違った返答をさせるのだ。
最初のコメントを投稿しよう!