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だけど、それと同じくらい嬉しいこともあった。
君が初めて声を発したとき。
君が「いただきます」と言えたとき。
君が触れたいと、言ってくれたとき。
他にもたくさん、一緒に重ねてきた思い出が今も心の中で息づいている。
俺のどの記憶のアルバムにも、いつもいつも君がいた。
ずっと、そばにいてくれた。
睦月が隣にいてくれたから、生きてこられた。
“また、ね……”
うん――。
今から睦月がいる場所に、俺も行くよ。
そうしたら、ちゃんと俺のこと「おかえり」って迎えてほしい。
俺も「ただいま」って返して、飛び込んできた君のことを、腕の中にちゃんと抱きとめるから。
「睦月……ありがとう」
そのまま、街に背を向け、空を見上げる。
視界に映る雪すら、あちらに向かおうとする俺を祝福してくれているように見えて、ふっと頬が緩んだ。
一歩、後ろに足を踏み出した瞬間、体が浮遊感にさらされた。
落ちるときなんて一瞬なのに、まるでスローモーションのように舞い散る雪が景色の中を流れていく。
その光景に目を細めて、そっと空に手を伸ばした。
君のいる場所はきっと、二人でずっといられる場所。
そっちに行ったら、今度こそちゃんと、君に触れさせて。
永遠という世界の中で、どうか、もう一度君と。
愛しあえますように――。
舞い落ちる雪に交ざり合って、この想いが叶うように、強く強く、願いを込めた。
ここは、終着点じゃない。
きっと君と新しく紡ぐ人生の始発点だと思うから――。
《終》
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