0人が本棚に入れています
本棚に追加
午後八時、カフェの駐車場に停めると、近づいてくる姿が見えた。この人だ、と直感的に思う。プロフィール写真では横顔だったけど、いまは暗がりのなか、ぼんやりと顔がわかる。
あたしは車から降りた。
「はじめまして。行きましょうか」
彼は挨拶も早々に店へ向かう。ためらう隙も与えてくれないまま、彼のあとについて店内に入る。
彼のペースにのまれてしまわないか一瞬不安になったものの、席に着いてまもなくから笑顔で会話ができた。笑顔がすてきな人だな、と直接会ってみても感じる。見た目は歳相応か少し若く見えるくらいという印象だ。
会話のなかで同じ地域に住んでいることがわかった。もうひとりの男性も同じ市内には住んでいるけど、こんな近くの地域の人と出会うなんて思ってもいなかった。地元の人しか知らないような場所もよく知っていた。そんな彼も移住者だという。父親の地元らしい。東京から移住してきたと話す。移住ってそんな簡単にできるものだろうか。その行動力が興味深い。
自然体で会話をしている自分に気づいた。いつのまにか互いに敬語は抜けていた。
「あたしさ、ほかの男性ともやりとりしてるんだよね」
「女性はいいねたくさんくるだろうしね。会ってみるの?」
「まあ、いちおう」
「どんな人?」
「気になるの?」
「どんな人がこういう子にいいねをするのか気になる」
「こういう子って」
いったいどういう子だと思っているのだろう。うまくきけずにいた。
「まあ、いろんな人に会ってみるのはいいことだね。おもしろい話を聞けたり自分の苦手なことがわかったり」
そんな考え方があるなんて知らなかった。恋愛をするために会う。相性が合わなければそれでおしまい。そう思っていた。会う人たちから何かしらを得ているのか、この人は。
「やりとりしてみていい感じ?」
彼はきいてきた。
うん、まあ。あいまいに返事する。「ていねいだしね」
「へえ、いい人そうだね」
彼は笑いながら聞いている。なんだこの人、とふたたび思いながらも会話はスムーズに流れていった。
カフェを出て、じゃあまた、とあいさつをする。割り勘をした。したいと思ったから。
男性と会う初回はなんとなく男性に支払ってもらうのがある種の礼儀みたいな気がしていたけど、いまはなぜか自分からもお金を出したくなった。
彼は、ありがとう、と言ってお金を受け取った。
家に帰って、あたしからお礼と、よかったらまた会いましょう、とすぐに連絡を入れた。
最初のコメントを投稿しよう!