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【6】旧宮殿の第二庭園
――一気に色々なことがあって、正直混乱した一週間だった。
この国は、太陽が顔を出すたびに一日と数えて、七日で一週間、四週間で一ヶ月の暦を使っている。現在は、雛晴の月だ。週末は二日間が安息日でお休みで、本日は休日である。ゆっくり休もうと考えていたのだが……朝、執事のロビンに叩き起された。
「お嬢様、本日十時より、婚約者のシュルラハロート侯爵様が会食をとの仰せです」
「――え? ヴォルフ様が?」
「旧宮殿の第二庭園を貸切になさったそうでございます。馬車の手配は万全です。また、シュルラハロート侯爵様より贈り物を頂戴しております」
「贈り物?」
私は食事の知らせにも驚いたし、王立学院で噂を聞いた事がある女性憧れのデートスポットが貸切だという話にも驚いたし、何より長らく貰っていない贈り物がいきなり届いているという知らせにも驚いた。驚いて驚いて驚いたのである、とにかく驚いた。
「贈り物をもって来てくださる?」
「かしこまりました」
紅茶を飲みつつ私は、緊張しながら待っていた。するとロビンは箱の山を抱えて戻ってきた。多い……まさか巨大な人形だろうか? 最後に貰ったのは、うさぎのぬいぐるみだったような気がする。
「まずはこちらを。お召し物です」
「ドレス?」
「ドレスだけではなく、一式届いております。身につけてお出かけになられると良いでしょう。お喜びになると思います」
私は、普段はラベンダー色のドレスばかりである。簡単に言えば、紫と白だ。
しかし今回届いたのは、いつか一度着てみたいと思っていた、暖色系のドレスだった。
檸檬色と白色とレースで、ふんわりとしたお花のようなリボンが各地についている。糸の一つ一つが上質で、コルセットを締めながら、私は美しさに感動した。
お姫様のようだ……と、王家の皆様に申し訳ないことを考えてしまったほどである。髪飾りやイヤリング、靴も届いていて、全身を着替えたら、普段とは全く印象が変わったと自分でも思った。
ヴォルフ様は、こういうのが好みなのだろうか?
私は今日好みになりましたと、大きな声で伝えたい。
それらの箱が終わっていき、最後に残された箱を開けたら、オルゴールが出てきた。
中に氷の魔術がかかった緋色の花が入っていた。
シュルラハロート侯爵家の象徴の花である。本当に綺麗だ。
優しい音楽を聴きながら、幸せな気分で紅茶を飲む。そんな私に、クライが言った。
「今日は俺を連れてくるなと、手紙に書いてあったぞ。さっきチラッと読んできた」
「え? そうなの? 聞いていないわ。そう、では、お留守番をお願いいたします」
「お前の周囲は優しくないとしても、愛は深いらしいな」
「愛? そうね、こんなに贈り物が届くなんて……愛情かしら?」
「安心しろ、愛情だ。俺の愛には負けるが」
そんなやりとりをして思わず吹き出し、私は良い気分で馬車に乗った。
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