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私室に向かう。すると横長の椅子に寝そべり、クライは何やら本を読んでいた。
召喚獣の文字で書いてある。
その文字こそ、今私達が求めているものであり、人型召喚獣の召喚を決めた理由なのだが――これは学院で聞くべきことだと考え直して、私はクライに歩み寄った。
クライは体を起こして、私の座る場所を開けてくれた。その際、一応本を読めるかチラっと見て試したが、私には全く読めなかった。イケメンという単語が無かった事だけは確かだ。
「どうだった?」
「それがね、キスされそうになったら用事ができていなくなって、でもね用事は嘘で、それでね、あの」
「焦っているのはよく分かった――安心しろ、言わなくてもわかっているからな」
「え?」
「俺は愛するお前のことならば、なんでもお見通しだ――というのは、やろうと思えばできなくもないが、この魔道書で、今日のお前の行動を見ていたんだ」
「そんなことが可能なのですの?」
「五分程度遅れてだが、その場の光景が送られてくるから、やりとりを眺めることが出来る。召喚獣の魔術の一つだ」
「詳しく聞かせてください、学院で! 今はそれよりも、それを見て、今日の私についてどう思ったか教えてくださいませ!」
「愛らしくて誰よりも可憐で、美しかった」
「そうではなくて! 今は優しい言葉は――……取り入れつつ、ヴォルフ様とロビンについて聞きたいのです」
私はクライの胸の服を引っ張りながら、困っているのだと視線で訴えた。
するとクライが柔らかい表情で笑った。
「恋に恋をしていたって別に問題はない。だが、恋が何かを知るのも良い。折角だからみんなと恋愛をしながら考えたらどうだ?」
「それは浮気ではありませんか?」
「相手がお前に惚れている。お前はそのアプローチを受けるだけだ。それとも好かれて嫌な相手がいるのか?」
「――え?」
そう言われて、私は戸惑った。
「婚約者は変えられる。だからヴォルフとリヒトとやら以外も選択肢にあげて良い。また一度であれ俺を召喚した以上、召喚術師としても、お前は生涯生活を保証されるだろう。よって、身分も関係なく、平民出自の執事だろうが教師だろうが誰とだって恋が出来る――ただ一人、俺を除いて、だけどな。術師として生きていく、その場合は」
「……」
「俺に恋をした場合、お前は召喚術師失格とみなされる。同時にその醜聞では、振られたなどとは関係なしに、周囲の反対でどこの貴族も召喚術師もお前と婚姻を結ぶことはなくなるだろうな」
「……」
「が、俺もお前に恋を教える役に立候補する。お前は俺を選べば良い」
そう言って余裕たっぷりに笑ったクライに、私は何も返す言葉が見つからなかった。
だから逃げるようにして、お風呂に入ることにした。
週休二日で本当に良かった。明日こそじっくり寝ようと、私は決意した。
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